ダリ劇場美術館 (Figueres, Spain)

スペイン、バルセロナ郊外、フィゲレス。非現実空間を表現するダリの作品とダリの育った場所の相関を探る。

ダリの作品を初めて見たのは、アメリカ、ニューヨークシティーの MOMA (ニューヨーク近代美術館)で、まだ二十代前半の頃だった。Persistencia de la memoire (記憶の固執)は確実に自分の心に引っ掛かった。単純と言えば単純だが、絵に対する概念を覆してくれたといってもいいだろう。

ダリの絵を見ていると「非現実空間」という言葉がしっくりくるが、この「非現実空間」を創出した背景について興味を覚え、この美術館を訪れようと思ったのが経緯だ。

そのダリの専門美術館がバルセロナ郊外フィゲレス(Figueres)という町にある。バルセロナから電車で一時間半。駅から歩いて町を眺めながら、バルセロナとは違う田舎の町の雰囲気が心地良かった。

美術館は、ダリというだけあり奇抜で、ダリの世界に浸かることができる。建物も赤紫色系で奇を衒った感じがするし、展示している作品もオブジェ系が多く遊び心に溢れたものが並んでいた。ただし、絵という観点では印象に残るものは限られていた。ダリの作品が世界中に出回っていることも関係しているのだろう。尚、館内にはダリの墓も存在しダリファンは訪れるべき場所と言えるだろう。

個人的には、美術館よりもダリが育ったこのフィゲレスの町の雰囲気に感銘を受けたという方が的を射ているかもしれない。美術館の近くにあった”Restaurante La Tagliatella” というイタリアンレストランで食べたパスタが、本場イタリア同様のアルデンテで白ワインとともに食した。その料理の美味、天候の良さ、リラックスできる空間、少し離れた席にいた客の笑い声が、あまり経験したことがない幸福感を齎してくれた。

結局、このフィゲレスの町の雰囲気とダリの「非現実空間」の作風は結び付かなった。少なくとも、フィゲレスの町から影響を受けた部分は少ないと勝手に想像する。

バルセロナを訪れて人で溢れた街に少し疲れを感じた方は、この美術館まで足を延ばしてみることをお勧めする。スペインの田舎には素敵な雰囲気の場所が多々あるが、このフィゲレスの町は、都会にはない心を穏やかにさせてくれる何かがあるような気がする。

2012年訪問。

基本情報

■ 名称:ダリ美術館
■ 住所 : Plaça Gala i Salvador Dalí, 5, 17600 Figueres, Girona, Spain
​■ ホームページ:https://www.salvador-dali.org/en/