メキシコ壁画運動を立ち上げた、メキシコ人芸術家、ダビッド・アルファロ・シケイロス。感情を揺さぶる情熱の絵は、見るものを知らない世界へ導いてくれる。
シケイロス(David Alfaro Siqueiros)というメキシコ人画家がいる。ディエゴ・リベラ、ホセ・クレメンテ・オロスコ、ルフィーノ・タマヨと並ぶ、有名なメキシコの壁画家だ。このシケイロスは、私にとって特別な存在だ。それは、絵が発する熱を初めて感じた作品が彼のものだったからだ。それは、ニューヨーク近代美術館で見たシケイロスの「Collective Suicide」だった。今から三十年近く前の話だ。それ以来、彼の名前は私の記憶の片隅に留まることとなった。

そして、ようやく、メキシコを訪れる機会を得て、シケイロスの作品を巡ることができた。メキシコシティーには、彼の作品を複数の美術館、壁画で見ることができる。ここでは、彼のメキシコシティーで見られる作品を紹介する。
■ べジャス・アルデス宮殿:Palacio de Bejjas Artes (Palace of Bellas Artes)
この宮殿は、建物内部の内壁に複数の作家の壁画が描かれてある。シケイロスの作品があるのは、三階の内壁、合計5枚の絵が描かれている。作品名と写真は次の通り。スペイン語でしか書かれておらず、( )にて英語を記述。いずれも、政治、歴史に関するもの。ある意味おどろおどろしい。ただ、やはり、この作家の凄さは、絵が発する熱量だろう。
私は、美術の専門家ではないので、絵を描く技術については分からないが、曲線の書き方、丸の書き方に目が行ってしまう。下記にある5枚の絵で言うと、上から、「絵の中心にある鉄製?の物体」「左横に横たわる人の腕と脚の筋肉」「肩の筋肉」「乳房と重り」「筋肉」だ。色の使い方も特徴があるが、個人的には、この曲線部分に目が行ってしまう。
□ Apoteosis de Cuauhtemoc redivivo 1950-1951 (grand finale of Cuauhtemoc red wine)

□ Tormento de Cuauhtemoc 1950-1951 (Torture of Cuauhtemoc)

□ Vctima del fascismo 1945 —Victim of fascism

□ Nueva democracis 1944 — New democracy

□ Victimas de la Guerra 1945 — Victims of war

■ チャブルテペック城:Castillo de Chapullepec (Chapullepec Castle)
ここは、宮殿の正面階段の天井と、正面左手の部屋に、シケイロスの壁画がある。特に、正面左手の部屋の壁画は、二つの続き部屋の、建物の前庭に面した壁以外を埋め尽くしており、完成させるまで、相当時間がかかったのではないかと思わせる。個人的には、この場所が、一番圧倒された場所だった。中央階段の天井にも、シケイロスが描いた作品があったが、この作品は、少年の表情に見える悲壮感が、私の中に入ってこなかった。
□ Del Porifirsmo a la Revolucion (From Porifirsmo to Revolution)






■ 近代美術館: Museo de Arte Moderno (Museum of Modern Art)
この美術館は作家ごとのコーナーを設けており、私が訪問した時、シケイロスのコーナーには、5つの作品が展示されていた。シケイロスの作品は、作品のタイトルがカッコよかったりするのだが、真ん中にある顔のない人の絵のタイトルは、Nuestra Imagen Actual(Our current image)。一番右にある作品のタイトルは、Yo por jo(I for myself)。これは自画像のようだが、ハンサム系の野心を携えた人という印象だろう。右側から二番目の作品はAbstracion。個人的には、ここにある5枚の中では、一番、気に入った作品だ。曲線と、その色遣いに目を奪われてしまう。




■ シケイロス美術館:Salo de Arte Piblico Siqueros (Siqueiros Museum)
ここは、シケイロスがアトリエとして使用していた場所だが、周りを歩くと、閑静な高級住宅地ということがすぐにわかる。アトリエということで、美術館には狭すぎるが、それなりに作品が並んでいる。シケイロスの作品は一階の手前にあり、一階の奥と二階は、若い作家の作品が展示されていた。
若い作家の作品も、シケイロスをイメージしているのだろう、骨のある作品が並んでいて、興味深く、鑑賞することができた。一階の入口付近には、本が並んでいたが、画集というよりは、活動家の側面に関する本だけのように見えた。彼の作品は、他の美術館でも、「彼だけの画集はないのか?」と訊いてみたが、なぜか、存在しなかった。


■ ポリフォルム・シケイロス:Pollyform Siqueiros
ここもシケイロスの壁画で有名な場所らしいが、私が訪問した時は、改修中のため、閉館していた。ただし、敷地の外から壁画の一部は見ることができた。


■ メキシコ国立自治大学:Universidad Nacional Autonama de Mecicos
(National Autonomous University of Mexico)
この大学は、メキシコシティーの南の郊外にある。広大な、芝生の広場があり、そこにシケイロスの「民衆から大学へ、大学から民衆へ」という壁画がある。ただし、私が行った際には修復中だった。壁に脚立が並んでいたが、隙間から見た感じだと、色が薄くなってしまい、色を入れるレベルの大掛かりな修復のように見えた。
ちなみに、建物が斬新な設計で有名な、ソウヤマ美術館(Museo Souyama)には、この作品の絵が、入口を入ったすぐの所に、レプリカとして展示されていた。この大学はキャンパスが広く、この広場でさえ、見つけるのに苦労した。休日だったこともあり、道路通行が制限されていたようで、タクシーは懸命に場所を探してくれた。最後は、タクシーの運転手が、構内に居たパトカーの人に訊ねると、そのパトカーが目的の場所まで、車で先導してくれた。
メキシコの警察というと、何故か、良いイメージを持たないのだが、この件といい、他でも、バスがパンクした際に、警察がやってきて、運転手と一緒になってタイヤ交換を手伝っていたのを目にしたが、基本は、優しい人たちということのようだ。



シケイロスの存在だが、タクシーの運転手、現地で会った人、合計十人程度の人にシケイロスのことを訊くと、一人を除き、全員が知っていた。海外では、一般の人まで認知されている状況ではないが、改めて、彼のメキシコシティーでの知名度の高さに驚かされた。
ただ、「好きか、嫌いか?」という話になると、「好きです」と明確に答えてくれた人はいなかった。もちろん、芸術が好きな人を選んで質問をした訳ではないので致し方がないが、「あまり好きではない」という人がいた。では、「何故、好きではないのですか?」という問いをしたところ、「暗い気分になるから」というのが答えだった。
私は、この答えに妙に納得してしまった。シケイロスは、芸術家という顔以外に、活動家としての顔も持っており、国外追放されていた時期もある人なのだ。確かに絵のタイトルを見ただけでも、彼がテーマとしていることが、政治的な側面を保持していることが理解できる。ただ、だからこそ、絵に力があるのだという気もしてしまう。
ちなみにシーケイロスは、岡本太郎とも交流があったということだ。色使いについては岡本太郎の「陽」に対し、シケイロスは、「暗」という気がするが、線の描き方、特に曲線の使い方が似ているような気がした。
2019 年訪問。
基本情報
■ 名称 : シケイロス壁画
■ ホームページ : https://palacio.inba.gob.mx/ (べジャス・アルデス宮殿)
(described on Mar 22 2020)
