ベニス (Italy)

世界屈指の観光地、水の都。迷路のような路地を歩き倒し、中世にタイムスリップする。

言わずと知れたイタリア北部の街。「水の都」と呼ばれ、運河とゴンドラの光景で知られる。世界屈指の観光地。まず、驚かされるのが、空港から街の中心に船で入るところだ。それも、大型船ではなく、二、三十人乗りの小型船だ。大型荷物を持って船に乗り込む状況はあまり経験したことがない。ちなみに、空港から街の中心であるサンマルコ広場横の船着き場まで1時間30分程度かかる。結構長いが、美しい景色を眺めていると、気が付くと到着している。

ベニスの街は、素晴らしい現代系美術館が二つある。ペギーグッゲンハイム美術館とプンタ・デラ・ドガーナだ。また、二年に一度、春から秋にかけてベニスビエンナーレという100年以上続く美術展覧会があり、現代系アートを堪能することができる。イタリアで美術館というと、どうしても中世美術が中心になってしまうのに対し、この街には現代系、コンテンポラリー系の美術館、美術展があるところが特徴と言えるかもしれない。歴史ある街並みの景観に、現代芸術というのは、意外な組み合わせだ。

この街は、とにかく歩いていて楽しい場所だ。基本的には、どこを歩いても、細い通路とその両脇に建つ十メートル程度の高さの建物という景色だが、歴史を感じる建物と、濃いグリーン色の水を配した運河は、ハッとする景色に遭遇する。欧州には旧市街の街並みが多々存在するが、この水とのコントラストの視点では、他には見られない特異な場所だ。散策は、街の中心となるサンマルコ広場周辺だけではなく、少し離れたところまで、歩き回ってほしい。街の中心地は、とにかく観光客で溢れているので、この街の良さを感じることができない気がする。ただ、奥に行くと、通路の幅が1メートル程の場所があったり、そこを過ぎると、ちょっとした広場になっていて、そこで子供が遊んでいる日常の光景を目にすることがあった。

通路は、計画的に作られたものではないのだろう、入り組んでおり、歩いていると、どこを歩いているのか分からなくなる。道に迷うと、建物脇にある通りの名前が書かれたテンプレートを目にし、地図を眺め、再び歩き始める。今となっては、スマホの地図を見ながら歩けばよいので、そういう意味では、自分が思うままに、気が向いた方角へ突き進んでいってはどうかと思う。そうすることによって、思いがけない場所、光景に遭遇する気がする。

散歩をする時の一つのお勧めは、早朝と夜だ。昼間は、とにかく、観光客で溢れている。もし、街の中心街から遠くまで歩く時間がない、余裕がないのであれば、人がいない時間帯を狙って、早朝と夜、歩くのがいいだろう。静寂の中に、素敵な景色・風景を発見できるはずだ。

さて、この場所には、車が走っていない。サンマルコ広場の横で船を降りると、大きな荷物を引きながら、ホテルに向かわなければならない。歩いていて疲れた場合は、車は走っていないので、運河を走る船に乗ることになるが、船着き場まで行くのも結局歩くことになるので、それほど役立つという感じもしない。従い、相当な時間歩くことを想定しておくのがよいだろう。

この街を歩いていると、改めて、車が走っていないことに気付く。車が走っていないということは信号機もないということだ。車がないので、自由気儘に歩くことができるのだ。文明社会に身を置いているが、この街の仕組みだけは、昔から変わっていないことを実感できる。

尚、車が乗り入れられるのは、ローマ広場まで。空港からバスで入る場合には、このローマ広場まで来ることになるが、ホテルがサンマルコ広場周辺にある場合、歩くと30分程度かかる。比較的フラットだが、石畳の道をスーツケースを引きながら30分歩くというのは骨が折れるので、水上バスを使うことになる。ただし、この水上バスは混んでいて、スーツケースを持ち運びながらの乗車も、日本人的感覚からすると気が引けるので、冒頭に記載したように、空港から船でサンマルコ広場横まで入るのが現実的だと思う。

最後に、私が面白いと思ったエピソードを一つ記載しておく。夜、普通のレストランに足を運んだ。私たちが入店した時には、客は誰もいなかった。店内にはテーブルが十程度並んでおり、店員が好きなテーブルに座っていいというので、私たちは、窓際から三つ目のテーブルに着いた。しばらくすると、一組のカップルが店内に現れた。そのカップルは、私たちのテーブルの隣、店内側に着席した。その後、しばらくして、他のカップルが店内に現れた。そのカップルは、私たちのテーブルの隣、窓際のテーブルに着席した。こうして、私の両隣のテーブルが埋まった。店内にある、他の7つのテーブルには誰もいない。おまけに、特等席ではないかと思う一番窓際のテーブルは空いている。

この手の話は、他の場所でも経験したことがあるが、日本人と欧米人の感覚・意識の違いには驚かされる。私たちの次に店内に入ってきた人、それが日本人であれば、ほぼ確実に、私たちの隣のテーブルには座らないだろう。しかも、さらに、その次に入ってきたのが日本人で、二つのテーブルに並んで人が座っていたとしたら、その二つのテーブルから離れた場所に座るのではないだろうか。この感覚、認識の違いは文化的なものから派生しているのだと思うが、非常に興味深く、しばらく頭から離れなかった。

1988年、2013年二度訪問。

基本情報

■ 名称 : ベニス、イタリア
■ ホームページ: https://www.veneziaunica.it/en/content/visit-venice-0 (The official tourism website of the City of Venice)