29 パームズ / Twentynine Palms (Carifornia, USA)_荒野に点在する家を巡る

アメリカ、カリフォルニア南西部にある不思議な名前の町。荒野に点在する家を徘徊し、都会を逃れてこの場所に辿り着いた人々の思いを想像する。

アメリカ、カリフォルニア州南西部にある町。アメリカ海兵隊基地がある場所でもある。まず、名前がカッコいい。本質的な部分からは大きく外れるが、町の名前が響くかどうかというのは、意外と重要だったりする。この「Twentynine Palms」の「Twentynine」が、「Thirtyfour」だったら、カッコ悪い気がする。「Twentynine」で正解だ。

この町から南西に50マイル/80km程行くと、リゾート地として有名なパームスプリングスがあるが、パームスプリングスの瀟洒なイメージはこの町にはない。最初にこの町を通った時の印象は、アメリカ西部の荒野にある普通の町というものだった。この町に対する見方が変わったのは、一冊の写真集だった。タイトルは、「Isolated Houses」。この写真集は、荒野の中に点在する家を撮影した写真集だが、この家々が、この29パームズ(Twentynine Palms)とその周辺だった。

この写真集を購入したのは2000年頃。この家々が、どこに存在するのか理解していなかったが、2018年、この写真集の各ページに記載されてある家の所在地の位置情報(緯度、経度)を調べたところ、その場所が、29パームズとその周辺にあることが分かったというのが経緯だ。写真集には、緯度・経度情報しか記載がないが、技術の進化により、ウェブの地図で、緯度・経度情報を地図上に落とし込むことができるようになったことが、非常に大きい。

この写真集は、2000年に発行されたので、今から20年程前の話になってしまう。私は、この写真集に掲載された場所から、気に入った場所をいくつか訪れ、この29パームズと周辺に魅力的な場所があることを見出した。一つは、ワンダーバレー(Wonder Valley)。もう一つは、デザートハイツ(Desert Heights)だ。

29パームズは、小さな町だが、ダウンタウンには店とレストランが並んでいる。ダウンタウンの北にあるアドビロード(Adobe Road)とIndian Trail(インディアントレイル)が交差する場所付近には、三軒の床屋が集まる珍しい光景を見ることができる。

ワンダーバレー(PIXTA : 49339475)
写真素材のピクスタ

ワンダーバレーは、29パームズの東に隣接する地域で、北の方にあるアンボイ(Amboy)という町から続くアンボイロード(Amboy Road)が29パームズに到着する手前に広がる地帯。町というよりは、コミュニティーという言い方が正しそうだ。存在するのは、荒野とその中に点在する家々だけ。アンボイロードの通り沿いにある店は「The Palms」というレストランしか見あたらなかった。「The Palms」レストランは、木曜日から日曜日までしか営業しておらず、私は二度足を運んだが、一度は「Private Usage」、もう一度は「Maintenance」のため閉まっていた。二回とも、人の姿が見えず不思議だったが、手書きの貼り紙には、「Do not worry, we are not changing anyway」との記述があった。地元では、愛されている場所に違いない。ちなみに、Twentynine Palmsのダウンタウンにあるビジターセンターの人によると、このワンダーバレーという名前は、昔、この場所に同じ名前の牧場があったことに由来するということだった。

もう一つのデザートハイツは、 トウェンティーナインパームズの一部地域を指す。町の北西に広がる場所で、未舗装道路が縦横に走り、その脇に家が点在している。ワンダーバレーが平坦な場所であるのに対し、このデザートハイツは起伏があり、家々の数も多い。

写真素材のピクスタ

このあたりは、国による土地の開放により、1950年から1960年代にかけて、大都市に住んでいた人が、静かな場所を求めて移り住んできた場所でもあり、芸術家やヒッピー系の人々が多く住んでいるということだ。ただ、これも今から50年以上前の話であり、従い、点在する家は廃屋が多い。車で走っていると、時代が流れたことを意識せざるを得ないが、一方で、新しい家が建っていたりするので、少なからず、この場所に魅力を感じる人もいるのだと思う。

(PIXTA : 50655862)
写真素材のピクスタ

写真集に出ている家々は、現在も、写真撮影が行われた昔と同じ状態を維持している場所もあったが、既に朽ち果てていた場所もあった。特にワンダーバレーは、アンボイロード沿いに朽ち果てた家の姿が目立ち、実際に人が住んでいるように見える住居も限られていた。この観点から、ワンダーバレーの荒野に突然現れるレストラン「The Palms」は驚きの場所だった。このレストランの中には、小さなステージのようなスペースも見え、また、裏庭には、小さなステージが組まれていた。時々、ライブ演奏が行われるようだが、この荒野の中で行われるライブはどのようなものなのか、非常に興味をそそられる場所だ。

デザートハイツは、29パームズの中心に近いエリアで、一部の道路が舗装されている場所には、数十メートルおきに家が並んでいる場所もあるが、少し外れると、家が並ぶ間隔は数百メートル、あるいは、車で走って数分おきという感じになる。このデザートハイツは起伏があり、東西に走る未舗装道路を走っていると、突然高台に出て、前方180度に、眼下に広がる荒野を見渡せるような場所も存在する。その高台から、荒野と点在する家々の景色は、アメリカ西部の荒野でも、あまり目にしたことがない。

29パームズ、デザートハイツ (PIXTA : 49954045)
写真素材のピクスタ

アメリカ西部の荒野を形容すると、「無」という言葉がしっくりくるが、この場所は、この「無」の世界に、人々が生活していることが実感できる数少ない場所であり、車を走らせていると、感じたことがない興奮が襲ってくる。是非、足を運んで、この不思議な場所を体感していただきたい。

尚、滞在する場合は、ダウンタウンのモーテルではなく、荒野に点在する家を選択して欲しい。この場所には、家を貸し出しているような場所が多々ある。私は、下記に滞在した。家の前は、荒野と、遠くにアメリカ海兵隊基地が見える場所で、朝焼けが美しかった。誰もいない空間を占拠し、非日常空間を満喫していただきたい。

Flying Point Homestead

(PIXTA : 49953633)
写真素材のピクスタ

1998年、2008年、2009年訪問

関連する本

2000年発売の写真集。
29パームズとその周辺の荒野に点在する家々をカメラに収めている。眺めているだけで癒される写真集。それぞのれ場所には、緯度・経度情報が掲載されているため、場所を特定することが可能。

​基本情報

​■ 名称 : 29パームズ
■ ホームページ: https://www.visit29.org/ Twentynine Palms visitor information

目次