青森県、十和田市。ステレオタイプの美術館建築の概念を覆す館内を巡り、コンテンポラリーアートの楽しさに触れる。
青森県十和田市にある現代美術館。十和田というと十和田湖が頭に浮かぶが、この美術館がある十和田市は、十和田湖から30km 程度離れている。東北新幹線の八戸駅から車で一時間弱の場所、十和田市の街の中央に位置している。
この美術館は、有名な現代美術館で名前はよく耳にしていたが、想像していたものとは異なり非常に驚かされた。美術館と言うと大きな箱を想像してしまうが、この美術館は小さな箱を配置している。美術館の前に立つと、入口の扉が、小さな箱をつなぐ通路の脇にあり、スライド式になっていることに驚かされる。自動ドアではない、手動である。私が訪れた時は、入場した人が扉を開けっ放しにしていたため、奥にいた係員の人がやってきて、扉を閉めている光景に遭遇し、度肝を抜かれた。
東北は寒いこともあり、自動ドアではなく手動のドアを使用していることも関係しているはずだが、この光景だけ見ると、地方の個人経営をしている小さな美術館を想像してしまう。ただ、美術館の前に立った時に感じた、普通の美術館ではないただならぬ雰囲気の通り、館内は期待を裏切らない素晴らしい空間だった。
入口を入って左側にあるチケット売場は、券売機が配置され、その横にカウンターがあり係の人が説明してくれる。小さな美術館のフレンドリーさを思わせる対応。そして、最初の部屋に入ると、いきなり、この美術館を象徴する作品、年輩女性の巨大像が現れる。部屋には、この巨大像しか存在しない。その奥には、複数の部屋があり、それぞれの部屋は廊下でつながっている。その部屋と廊下は天井から床まで外が見える構造になっている。
私が訪れた時には、塩田千春が最近力を入れている、赤い糸を部屋に張り巡らせた作品の展示が始まっており、一つの部屋を占拠していた。個人的に一番引っかかったのは、一階にあった暗がりの部屋にアメリカあたりのカフェダイナーを再現した作品で、部屋には心地良いジャズ系の曲が流れ、配置されたボックスシートに一日中座っていても飽きなさそうな空間だった。
この美術館に展示されている作品は、まさしく現代美術、コンテンポラリーアートだけであり、すべて、オブジェ・インスタレーション系。絵画の類の作品は一つもなかった。美術館自体は決して大きくないが、美術館の作品を展示することだけを考えて作られた空間で天井も高く、また、一部屋に一つの作品しか展示していないことも関係しているのか、それぞれの部屋が非日常感を形成していた。
建物の観点で見ると、海外も含めて見たことがない造りで、おそらく、設置場所が決まっていてスペースが限定される制約条件があったため、このような興味深い造りとなったのではないかと想像する。美術館の前、道路を挟んだ反対側には、屋外インスタレーションのエリアがある。勝手な意見を述べさせてもらうと、周辺は普通の民家、建物が並んでいるため、非日常空間を構築するのは限界がある。従い、このスペースも、現在の建物のコンセプトで増築してはどうかという気がする。
企画展の部屋も存在していたが、基本は常設展で見せる美術館だろう。今後、来場者に複数回足を運んでもらうことを考えると、いかに魅力的な作品を展示できるかが鍵となるかもしれない。この美術館は、既に海外でも評判となっている場所であり、今後、現在の魅力を維持しながら、さらにアップグレートしていく姿を見せていただきたい。
ちなみに、開館は2008年で10年以上が経過している。厳しい冬の環境条件もあるので、メンテナンスの継続が重要な鍵となるに違いない。海外だと美術館が町興しに貢献した例があるが、この規模感での成功は、非常に参考になるのではないかと思う。
2021年訪問
基本情報
■ 名称:十和田市現代美術館
■ 住所 : 青森県十和田市西二番町10-9
■ ホームページ:https://towadaartcenter.com/
(described on Mar 5 2023)