アーティストを目指す人にとって憧れの大学、東京藝術大学。常識にとらわれない、自分の感性を信じる人々が集う場所で、芸術への熱を間近に感じる。
東京藝術大学、いわゆる、藝大。音楽・アート系に志がある人にとっては憧れの大学だ。この大学に入るために何年も浪人をしている人、仮の姿で他の大学に入り、この藝大に入るべく毎年受験をしている人、一旦社会人になったが、どうしてもこの大学に入りたく挑戦し続けている人、などなど、いろんな話を耳にする。

では、「この藝大とはどういうところなのだろうか?」
この問いに対する答えを端的に語ってくれている本がある。
「最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常」
この本に描かれる藝大生は、常識に縛られず、自分の感性を最優先する自由人たち。金銭や就職よりも創作への情熱を重視し、奇抜な発想と徹底したこだわりで作品を追求する。天才性と破天荒さ、純粋さと不安定さが同居する、極めて人間味あふれる存在として描かれている。
では、ここに書かれていることを体感する方法だが、手っ取り早い方法として、次の二つが挙げられるだろう。
- 東京藝術大学のキャンパスを訪れる。
- 東京藝術大学大学美術館を訪れる。
ただ、以上だけでは、実際のところ深くまで理解することはできない。実際の藝大生と接点がないからだ。1)では学生の雰囲気を感じることができるかもしれないが中途半端だし、2)は、いつでも藝大生の作品が展示されている訳ではないので、やはり中途半端だ。
ということで、ここでは、藝大で毎年一度行われている、「東京藝術大学、卒業・修了作品展」について書くことにする。

この「東京藝術大学、卒業・修了作品展」は、毎年1月下旬から2月にかけて行われている。期間は一週間程度。学部生と大学院生の卒業作品を紹介している。場所は、大学美術館だけではなく、キャンパス内の教室も使われている。特に大学院生(修士)の場合は研究室になるのだろう、学生それぞれに部屋が割り当てられているようで、作品を製作していた場所に作品が展示されている。
対象学科は「日本画」「油画」「彫刻」「工芸」「デザイン」「建築」「先端芸術表現」などだが、やはり、目を引くのは「油画」になると思う。キャンパス内に「絵画棟」という8階建ての建物があるが、この上層階の部屋に作品が展示されている。

この場所の特徴は、一つの部屋・スペースに一人の作品しか展示されていないこと、そして、その学生が待機していることだろう。多くの部屋では椅子に座った学生を見かけるし、廊下に作品を創った学生らしき姿が確認できる。従い、話そうと思えば話をすることができる。これが、この展示会の良さだろう。
各部屋は一般的な学校の教室だ。もちろん作品制作のスペースということで、大型キャンバス、あるいはオブジェを収容できるような広さだ。イメージ的には、15mx8mというようなところだろうか、天井が高い。高さ6m程度。特徴的なのは部屋の中にシンク(流し)があることだろう。きっと、この部屋に籠もって作品制作に没頭するに違いない。


作品は「油画」なので、当然絵画が中心だが、オブジェ的な作品を製作している人もいる。「絵画」のサイズも様々、部屋の壁全体の大きさのものから、縦横数十センチのものまで、いろいろだ。当然、作品制作にあたり条件、制限はないに違いない。
部屋を廻っていると、作品に関する説明を記載している場合が多いが、そこに書かれた文章を読んでいると「ただものではなさそう」ということを感じることができる。また、多くの人は名刺を置いているし、中には既に「個展を開催しました」という類の経歴を書かれている人もいるので、既に有名アーティスト予備軍として活動している人もいるに違いない。



肝心の作品については、好みの部分もあるので一概には言えないが、ギャラリーで普通に飾られていてもおかしくないものも散見された。なかには、部屋に展示されている作品と空間そのものを美術館に持って行って展示してもよさそうなものも見受けられた。



私は、この「卒業・修了作品展」に三度足を運んだが、部屋の中で自分の作品を熱く語っている学生の姿に出会ったこともある。その語りを横で聞きながら、「熱くなれるものがあるというのは素晴らしい」と改めて思ったものだ。
尚、2025年に訪れた時に、「絵画館」で配布されていた作品のリストを見ると、42人/62作品が掲載されていた。一つ特徴的なのは、海外の方の名前があることかもしれない。部屋を廻っている時も、日本人ではないことが分かる人の姿が目に入った。名前だけで判断するのは失礼ではあるが、リストで見ると10人程度はいるように見えた。海外から藝大を目指してくるのも、やはり、この藝大の凄さが世界中に知られている証なのかもしれない。


作品を製作している現場を見に行く感覚で、藝大とは何かを知る意味も含め、是非、足を運んでいただきたい。尚、この記事は、「芸術祭」のカテゴリーに区分させていただいた。
2022年、2024年、2025年訪問
基本情報
■名称:東京藝術大学、卒業・修了作品展
■住所:東京都台東区上野公園12−8
■ ホームページ:https://www.geidai.ac.jp/
(described on Oct 26 2025)

