奈義町現代美術館(Okayama, Japan)_時を超えて評価される先駆的な現代美術館

岡山県北部、山間の町に忽然と姿を現す直方体と円筒形の建物。その不思議な造形が秘めてきた美術館の歴史をひも解く。

岡山県にある現代美術館。岡山県と言っても県庁所在地である岡山市周辺ではなく、岡山県北部、ほぼ、鳥取県との県境にある美術館だ。

そもそも、何故このような場所に美術館が、しかも現代美術館があるのかということで足を運んだ。開館は1994年。この年代に存在していた現代美術館は、全国でも数えるほどしかない。東京で言えば、原美術館と東京現代美術館ぐらい。森美術館、新美術館もまだ開館していない。

まず、この場所だが、岡山市から車で1時間半。山間部を通り、奈義町へ。美術館は計画的に整備されたと思われるエリアにある。直方体と円筒形の建物が折り重なった不思議な形状の建物が現れる。道路を挟んだ横にある駐車場に車を止め、外に出る。背後に連なる山と青空の絶景に驚かされる。

奈義町現代美術館

館内に入る。入って左側に受付がある。係員の女性が応対してくれる。実は、この美術館は公立図書館も兼ねていて、奥に進むと美術館の展示エリア、手前に進むと二階に図書館がある。

この美術館のコンセプトは建築と作品を一体化させた作品を3作品のみ常設しているということだ。3作品は個別の展示室にある。展示室は、それぞれ「月」「大地」「太陽」。作品は空間+オブジェの融合系。

受付を奥に進むと左側に見えるのが、「大地」。敷き詰められた石の空間にワイヤが配されている。高級ホテルの館内通路脇のスペースに設置されていそうな空間。

奈義町現代美術館
大地

「大地」を過ぎて突き当り左側を進むと「月」。足音が空間にコダマする落ち着く空間。

奈義町現代美術館
月
奈義町現代美術館
月

上述の突き当りを右側に進み一人しか通れない螺旋状の階段を上ったところにある「太陽」。円筒状の空間にオブジェが配された非現実的な空間。

奈義町現代美術館
太陽
奈義町現代美術館
太陽

それぞれの空間は、長さが15m程度あるが、都会の美術館では創り出すことが難しい空間と言える。また、場所的なこともあるが、訪れる人も少ないため、少しだけ待てばそれぞれの展示室で自分だけになることが可能だ。また、3つの空間にはそれぞれ座れる場所があるため、腰を下ろし空間を五感で感じることができる。空間が気に入れば、好きなだけ身を置くことができる。そういう意味では貴重な場所と言えるだろう。

私が訪れた時は、離れにある建物に展示があるということで向かった。道路を挟んだ反対側の建物に「レアンドロ・エルリッヒ」の「まっさかさまの自然」という作品があり鑑賞する。建物の外にいた方に話をうかがう。作家は、昨年9月-11月頃に行われた県北祭に参加し、レアンドロ・エルリッヒの作品を延長して展示しているということだった。ゲートボール場に作られた作品は、天井から逆さに吊らさがった木が床に貼られたガラスに映るというもの。すぐに撤去されるのはもったいないということで、展示が延長されたということだった。

レアンドロ・エルリッヒ
まっさかさまの自然

最後に上述の建物の外にいた方より聞いたこの「奈義町現代美術館」に関することをメモしておきたい。

  • 当時、年間予算50億円の町に15億円の美術館を作った。30年前。マスコミから叩かれた。
  • 奈義町現代美術館の来場者は年間2-3万人とのこと。
  • 奈義町は出生率が高い場所で有名だが、人口は増えていない。
  • 近くに見える山は三ヶ所、禿げているところがあるが、これは自衛隊の演習場で、実弾演習ができる。

それにしても1994年にこのコンセプトで美術館を造るというのは、相当な覚悟だったに違いない。特殊な形状の建物と空間、そして作品の恒久展示。当時は非難を受けたようだが、現在では、評価されているようでもある。それなりに先見の明があったということなのかもしれない。個人的には、海外も含め見たことがないタイプの美術館で、非常に印象に残った。興味がある方は、是非足を運んでいただきたい。

奈義町現代美術館

尚、建物の設計は、磯崎新。名前を聞いてピンとくる方もいるのではないだろうか。ロサンゼルス現代美術館を設計した人だ。

また、美術館横の建物にイタリアンレストランがあり、都心にある洒落た店のようだった。美術館の帰りに立ち寄っていただきたい。

2025年訪問

基本情報

■名称:奈義町現代美術館
■住所:岡山県勝田郡奈義町豊沢 441
​■ ホームページ:https://www.town.nagi.okayama.jp/moca/