デンマーク、コペンハーゲン郊外。長閑な住宅街にある一般家屋にしか見えない建物に入り、館内を徘徊。ラディカルな作品群に驚いていると、「世界一美しい美術館」の海の景色が眼前に現れる。
デンマーク、コペンハーゲン郊外にある近代美術館。美術館マニアの間では、「世界一美しい美術館」として知られている美術館だ。個人的には「ルイジアナ」という名称から、アメリカにある美術館なのかと思っていたが、美術館があるのは欧州、デンマーク。
美術館はコペンハーゲンの北35kmの郊外にある。コペンハーゲン中央駅から電車でフムレベック駅下車、徒歩15分程度。私が訪れたのは真冬の1月、平日の金曜日だったが、電車から降りた20人程度が、同じ方向に歩き始めたため、道に迷うことはなかった。
美術館に到着してまず驚かされるのが、入口のある建物が普通の一軒家のようにしか見えないことだろう。この美術館は、1856年に建てられた邸宅を改装していることが関係している。
電車の駅から歩いてきた人々の行列の最後尾に並ぶ。チケット購入後、中に入ると、いきなりショップが現れる。1階と地下1階。ロンドンのテートモダンにあるショップの広さと肩を並べるスペースだ。
サウスウィング(South Wing)の展示室に向かう。廊下状の通路を歩き、建物のエリアに入る。近代・現代系の作品が並んでいる。日本人作家(Tetsuya Ishida)の絵が3枚ある。2階にも日本人のインスタレーション系の作品(Yuji Agematsu)がある。このサウスウィングは2階建てだが、部屋が入り組んでいて結構分かりにくい。分かりにくいという観点では、良い美術館の条件を満たしている。2階に休憩できる場所がある。景観が素晴らしい。ソファーに座ると奥に海が見える。このサウスウィングの1階に草間弥生の作品(Gleaming lights of Souls)が展示されている。一人ずつ部屋に入り鑑賞する形式。恒久展示。
サウスウィングを出ると回廊状の建物が続き、階段を降りる。ここにこの美術館の姿勢・考え方が分かる企画展が行われていた。ロシアのパンクバンド、活動家であるPussy Riotの展示だ。地下の廊下状の展示室には映像作品中心の展示が続き、人で満員。Pussy Riotの展示は世界初ということだが、展示室の人をかき分けて前へ進むような状況であった。この回廊状の建物は、イーストウィング。
さらに奥に進むと博物館的な展示があり、地上階に上がるとカフェがある。広いスペース。美術館のカフェには見えない。見晴らしの良いテーブルは人で埋まっている。地元の人のようにも見える。私は、人が少ないエリアのテーブルへ座った。テーブル番号は138。テーブルを一つ開けた奥には男性が一人座っていたが、テーブル番号はおそらく140。どうやら、一番端のテーブルのようだった。2人掛けのテーブルに数字が振られているようだが、一番大きな数字は140。すなわち、このカフェにあるテーブルの数は140。つまり280人ぐらいが着席できることになる。
方式は、入口に準備されたメニューを手に取り、空いている好きな席に着くと係の人がやってきてオーダーを訊いてくるというもの。Black Coffeeは、茶碗のような洒落た陶器に入って出てくる。シュリンプサラダはデンマーク特有のマヨネーズこってりだった。美術館は、平日は20時まで開館しているが、このカフェのメニューには「Dinner」の項目があった。おそらく、地元の人は、年間パスを購入して、このカフェに通って食事をしているに違いない。
カフェを出ると廊下が続く。ノースウィング。彫刻が並び、脇にジャコメッティーの部屋がある。素晴らしい。屋外には池が見える。その後、ウェストウィングに入り、絵画作品が並んだスペースを進み、最初のショップに戻ってくる。
以上で、館内を一周したことになる。この建物の構造も凄いが、これだけではないところがこの美術館の凄いところだ。屋外展示があるのだ。ショップの脇から中庭に出ると、彫刻系の作品が点在している。そしてカフェがあった建物の脇に到着すると、前方に海が見える。遠くにはぼんやりとスウェーデン大陸が見える。外から見えるカフェの店内は人で埋まっており、この美術館が「世界一美しい美術館」と言われる理由が分かる。
最後に、この美術館の凄さ・素晴らしさを整理しておきたい。
- 建物が古いにも関わらず、展示している作品が現代作品、しかもPussy Riotなどは過激であり、このような展示にも抵抗がないこと。
- 展示領域はシンプルな構造に見えるが、実はわかりにくいこと、カフェの地下のあたりは、どのように行けば次の部屋に行けるのかがよくわからなかった。
- 制服を着た係員が所々にいるが目立たないこと、障害にならないこと。
- 屋外展示がある庭が美しいこと、海が見える景色が素晴らしいこと。
おそらく、この美術館は場所とその展示内容のギャップにインパクトがあるのかもしれない。企画展は4つ行われていた。Pussy Riotだけを強調したが、サウスウィングに展示されていた現代作品も前衛的なものが目立った。尚、1900年代の絵画系の展示はほとんどなかった。著名なところでは、West Wingにピカソの絵が1枚と、彫刻エリアにYves Klein、そして、ジャコメッティー多数程度。
この「世界で一番美しい美術館」は、その名に恥じない美術館であり、古いものに固執するというよりも現代芸術を突き進めていく姿勢が感じられ、かつ、場所・建物と作品のギャップがあるインパクト充分な美術館だった。是非、足を運んでいただきたい。
2024年訪問。
基本情報
■ 名称: ルイジアナ近代美術館
■ 住所:Gl Strandvej 13, 3050 Humlebæk, Denmark
■ ホームページ:https://louisiana.dk/
(described on Jun 15 2024)