原美術館ARC _山麓に広がる高原美術館(群馬、Japan)

群馬県。東京品川にあった原美術館の精神を継承する美術館。山麓に広がるゆったりした空間を散策し、日本美術と現代美術が融合した空間に出会う。

群馬県、渋川市郊外の伊香保にある美術館。東京品川区にあった原美術館の別館だった。1979年に開館した原美術館は、現代美術がマイナーだった時代から存在する貴重な美術館だったが、2011年に閉館。この原美術館ARCは、原美術館が開館している時は、原美術館の姉妹館として、ハラミュージアムアークという名称で運営されていたが、原美術館の閉館後、2021年4月より名称を原美術館ARCへ変更した。

山麓に広がる高原に位置する美術館は、郊外型・自然型美術館の範疇に入るが、開館は1988年と古い。東京にある現代系美術館である、東京現代美術館、森美術館、新美術館はいずれも開館していない。そういう意味では、この原美術館とハラミュージアムアークは、現代美術の普及に多大な貢献を齎した美術館と言えるだろう。

品川にあった原美術館は、洋館の限られた狭いスペースに現代芸術作品を上手く配置し、ファンは多くいたはずだ。また、中庭に面したカフェは、都会にはない空間で、通った人も大勢いたに違いない。

原美術館ARCは、広大な敷地に平屋建ての倉庫形状の建物が配置されている。基本は、車で入ることになるが、車で敷地内に入ろうとすると道路脇に建てられた建物横の路上に一時停止し、下車したうえでチケットを購入し奥の駐車場に車を止めるというシステム。建物は黒塗りで、周りを囲む芝生の緑とのコントラストが美しい。天気がいいと、美術館の北側に見える山並みと、その麓に広がる高原の景色が爽快だ。

館内は、四つの部屋から構成されている。三つが現代芸術、残りの一つは、東洋芸術の部屋だ。現代芸術は国内外の著名な作品を中心に構成されている。リキテンシュタイン、ウォーホール、ジャスパー・ジョーンズ、草間彌生、宮島達男など。1950年代から60年代にかけて活躍した人の作品が目立つ。2021年に行われていた所蔵品展では、原美術館に展示されていた作品が移設されてきているものも目についた。品川の原美術館で、二階に向かう階段付近の見逃してしまいそうな場所に展示されていた宮島達男の「時の連鎖」は、展示室内に特別な空間を新たに設け展示されていた。

展示されている作品を観ると、さすがに現代芸術に対する造詣の深さ・拘りのようなものを感じるが、この美術館のハイライトは、もう一つの東洋芸術の部屋とも言える。現代芸術が展示された部屋とは少し離れた場所にある「觀海庵(かんかいあん)」と呼ばれる部屋は、東洋芸術を展示している空間で、屏風、絵巻などが展示されている。室内に誰もいないと、静寂に包まれ心が落ち着く場所だ。2021年の展示では、東洋芸術作品の中に、しれっと、マーク・ロスコの作品と、杉本博の作品が展示されていた。このあたりのセンスはさすがだ。

現代芸術作品が展示されている三つの部屋から、「觀海庵」の部屋に向かう途中は、渡り廊下になっていて、そこから見える広大な敷地とその奥に見える山の連なりと山麓は絶景だ。これだけ開放感がある場所にある現代美術館というのはお目にかかったことがない。また、屋外の敷地内にはインスタレーション作品が点在しており、散策するのも楽しい。都会の美術館とは異なる雰囲気を味わいたいときには、是非、時間を見つけて訪れていただきたい。

尚、室内の写真撮影は禁止されている。著作権という概念が曖昧になってきている時勢も踏まえると、解禁してもいいのではないかと思う。ちなみに、ショップには美術館の作品に関する本が見られなかったので、写真撮影を禁止する意図が不明確なような気がした。

2017年、2021年訪問。

基本情報

​■ 名称 : 原美術館ARC
■ 住所 :  群馬県渋川市金井 2855-1
​■ ホームページ:https://www.haramuseum.or.jp/jp/arc/

目次