エルパソ美術館 (El Paso Texas, USA)

テキサス州、エルパソ。かつてアメリカ入国を拒否された国境の街で、誰もいない静謐な空間を発見し、アメリカ南部のアート文化の底力を感じる。

テキサス州エルパソにある美術館。エルパソは、メキシコとの国境に面した街だ。メキシコとの国境に面したアメリカ側の街というとサンディエゴ、メキシコ側はティファナを思い出すが、サンディエゴは国境から離れているのに対し、このエルパソは、メキシコ側との国境がすぐで、この美術館があるダウンタウンから国境まで歩ける距離にある。

さて、このエルパソ美術館だが、エルパソのダウンタウンに位置している。アメリカの大都市のダウンタウンというと危険な印象しかないが、この場所は整備されており、安全に感じられた。

二階建ての美術館は入場無料。一階の入口を入るとレセプションカウンターがある訳でもなく、そのまま展示室に入れる。私が訪れたのは土曜日の朝だったが、建物に入ると年輩の警備員が挨拶してきて、荷物を預けるように促されると、近くにあるStorage Roomの鍵を開けて、自分で中にある棚に荷物を置くように言われた。非常に和やか、かつ素朴な印象。

館内はいくつかの部屋に分かれている。一階は企画展、二階はこの美術館が所蔵している作品が並んでいた。一階のスペースはそれほど広くはないが、二階のスペースはアメリカ地方都市の美術館にしては広く、特に二階の奥にある広さ50mx20m、天井まで10mほどあるスペースはリラックスできる空間だった。私が訪れた時には、黒人女性を題材にした作品が展示されており、注意を惹く作品が並んでいた。

上述の展示スペース以外には、中世絵画、特に宗教画が並んでいたが、コンテンポラリーアートも並んでおり、メキシコ、ラテン系の色調の作品、かつ、アメリカ南部特有の明るい色調の作品が並び爽快だ。

美術館が空いている、人が少ないというのは、美術館が「非日常空間」を醸成するための必要条件となるが、上述した二階の奥にある広大なスペースは、美術館の係員も含め誰もおらずリラックスできる空間だった。天井高10mというのは、限定されたエリアで構成することは可能だが、50mx20mというサイズ感は、あまり見たことがない。

尚、美術館のすぐ近くにはサンジャッキント広場というダウンタウンの中央に位置する広場がある。この広場の交差点の一角、道路を渡ったところに、Coffee Box という一風変わったカフェがある。コンテナを改造した二階建てのカフェは、二階のスペースが快適だった。エルパソ美術館と合わせて足を運んでいただきたい。

また、国境の街ということで、このサンジャキット広場の角から南に延びるエルパソ通りを歩くことは忘れないでいただきたい。道路の両側に並ぶ店は、カラフルな女性服、ジーンズ、生活雑貨、質屋など、メキシコ側に渡らなくてもメキシコを感じることができる貴重な場所だ。

最後に、非常に個人的な話になってしまうが、昔、私個人は、エルパソから国境を越えメキシコに入り、日帰りでUS側に戻ってくるときに入国を拒否され大変な思いをしたことがある。イミグレでの審査官とのやりとり、審査後、再度US側へ入ろうと歩き始めたところ、事務所から出てきた係官に「何をしているんだ、メキシコへ帰れ」と言われた記憶が焼き付いている。USとメキシコの国境問題は、なにかと話題になる場所だが、この国境付近も足を運んでいただき、是非、現場を体感していただきたい。

基本情報

■ 名称:エルパソ美術館
■ 住所 : One Arts Festival Plaza, El Paso, TX, USA
​■ ホームページ:https://epma.art/