アメリカ、カリフォルニア州北部。ステレオタイプのカリフォルニアとは異なる、ヒッピー文化を継承する町で、緩やかな雰囲気を楽しむ。
カリフォルニア州北部にある町。南から北上するとすれば、サンフランシスコから450km。車で5時間。北から南下するとすれば、ポートランドから650㎞、車で7時間。非常に不便な場所にある。ちなみに、近くには、レッドウッド国立公園がある。
では、何故、この場所を訪れるのか、それは、この町がヒッピー文化を体現している場所であるということだ。ヒッピー文化というと、発祥の地であるサンフランシスコが真っ先に頭に浮かぶが、サンフランシスコは何分、人が多く、落ち着かなかったりする。また、サンフランシスコは、シリコンバレーで働いている人々が生活する場所になってしまったこともあり、都会の忙しない生活を体現するような場所になってしまったような気もする。そもそも、今では、異常な土地の高さで、ホテル代も非常に高く、長期滞在は困難になった。
サンフランシスコが生み出したヒッピーは、北上し、カリフォルニア北部、及び、オレゴン州へ移り住み、その文化は今でも継承されている。その代表的な一つの場所がこのアルケータだ。また、ヒッピー文化と結びつきがあるマリファナも、この地域の気候が、マリファナ栽培に適していることもあり、日常生活に浸透しているようである。このあたりも、人々のリベラルな気質に影響を与えていると考えられる。
最初の訪問で、北にあるポートランドから下ってきて、このアルケータを目指したとき、アルケータの北、100㎞程にあるクレセントシティーという町あたりから、ヒッピー系に見える人の姿が目に付くようになり、クレセントシティでは、年輩のカップルが、「R.K.ta」と書かれたプラカードを持ってヒッチハイクをしている姿があった。
アルケータの町の中心には、プラザと呼ばれる広場があり、その広場を囲むように店が並び、人々が行き交う。その正方形の区画のプラザは、芝生が敷かれ、椰子の木が生えていて、絵になる場所だ。この手の町の中心に存在する一画は、欧州あたりではよく見かけるが、アメリカでは、あまり見たことがない。ちなみに、最初にこの町を訪れた時、私がプラザの店の前を歩いていると、道端に立っていたヒッピー系の風貌をした男性に、「Hello, Investor」と声を掛けられた。
プラザの周りには、センスの良いレストラン、服屋、雑貨屋、バー、コーヒーショップ、アクセサリー屋、レコード屋などが連なり、店に入ると、全ての店の店員が挨拶してくる。まあ、田舎の町では普通のことだが、少なくとも挨拶が不自然ではないというのは分かる。人種的に言うと、住民の大勢は白人のようだが、偏見的なものは感じられない。アメリカは、移民文化で成立している場所であり、この、ある種の実験は進化途中であるという見方ができると思うが、ヒッピー文化は、思想的な観点から、この進化に多大な貢献をしたのではないだろうか。
町には、東洋人の姿もあまり目にしない。ただ、日本料理屋がいくつかある。二回目の訪問時にウェブで確認すると、四店舗存在するようだった。日本人を含む、東洋人の姿を見かける訳でもないので、不思議に感じるが、健康嗜好と東洋文化への傾倒が関係しているのかもしれない。ちなみに、プラザの周りの店に入った際に、店員との話で、「今日はいないけれど、日本人がここで働いているわよ」と言われたりするので、少なからず、日本人も住んでいるようである。
プラザの角には、このあたりに唯一存在するホテルがある。百年以上前から存在する「Hotel Arcata」は、絵になる場所だ。ロビーは、映画のレトロなシーンに出てきそうな趣で、モーテルばかりではなく、このようなレトロなホテルに滞在するのもいいなと思える。ホテルの受付の男性は、レトロな素敵な制服を着ており、私が、レセプション横のスペースにある、このホテルを訪れた有名人の写真を眺めていたら、「なんだい、自分の写真を探しているのかい?」と冗談を噛ましてくれた。こういう冗談が、自然と出てくるあたりが羨ましい。
このホテルには、「友」という日本料理屋がある。最初にこの町を訪れた時には、若者で満員になった店内に驚かされたが、二回目の訪問時も、店内は混雑していた。店員の方に話を訊いたところ、店自体は30年程前に、他の場所で日本人が始め、その後、他の日本人以外のオーナーの手に渡り、今の場所に移ってきたということだった。日本酒が多数揃っており、チキンカツがメニューにあり食した。美味だった。レストランの絶対数が少ないのかもしれないが、この混雑具合は個人的には不思議だった。
プラザにあるベンチに座っていると、ベンチに座って読書をしている人、芝生に座り込んで食事をしている人、子供と遊んでいる人、犬と戯れている人、ギターを弾いている人などいろいろだ。最初の訪問時と比較すると、外見上ヒッピー風の人は明らかに減っていた。ただし、住民の意識の中にリベラル気質はまだまだ残っているはずだ。
都会の忙しない空間から少し距離を置きたいが、自然に身を置くのは苦手で、少し文化的な匂いが欲しい、というような人におすすめの場所と言えるだろう。この界隈を車で走る時に立ち寄り、プラザ周辺を徘徊するだけでも充分だが、プラザにあるレストランで夕食を取り、Hotel Arcataに一泊すると、有名観光地とは異なる何かを感じ取れるのではないかと思う。
2007, 2019年訪問。
基本情報
■ 名称 : アルケータ、カリフォルニア
■ ホームページ : https://www.cityofarcata.org/ (Arcata, California, Official Website)
(described on Jun 27 2020)