アメリカ、テキサス州の荒野にあるプラダ店。陽が沈み、静寂の荒野に映えるアートが荒野に溶け込む姿を確認し、達成感に包まれる。
アメリカ、テキサスの荒野に建つブランド店、プラダ・マーファ/Prada Marfa。本物の店舗ではない。アート作品。建物の中には、プラダの鞄と靴が並んでいるが、中に入ることはできない、店員もいない。
これはれっきとしたアート作品だ。ポップアートあるいはランドアートという範疇だろうか。昔、アンディー・ウォーホ-ルが「キャンベルスープの缶詰」のドローイングや「ブリロ」という食器洗いパッドが入った箱を制作した感覚と似ている。消費文化に対するアンティテーゼの意味合いも少なからずあるのだろう。
建物がある場所はテキサス州西部の田舎、いや荒野。州道90号線沿いに建っている。周りには何もない。荒野の真ん中だ。一番近い町はマーファ。マーファは人口2千人程度の小さな町でギャラリーが集まっている。このマーファにあるBallroom MarfaというギャラリーとArt Production Fundという団体がこのプラダ・マーファの運営資金の提供をしている。
マーファに行くためには、一番近いゲートシティーとなるエルパソ(El Paso)に飛行機で入り、車で移動することになるが、この移動の途中にこのPrada Marfaが現れる。エルパソからマーファまでは車で3時間程度だが、マーファの手前、約60kmのところに進行方向右手に現れる。
建物の大きさは8m(横)x3m(奥行き)x 5m(高さ)程度。正面中央に扉がある。店内には、靴が7足(片足)x3段=21足、鞄が3ケx2ヶ所=6ケ並んでいた。尚、この作品が公開された2005年直後に建物が荒らされた経緯があり、現在は監視カメラが付いている。建物の中と、正面外壁左上に設置されている。尚、建物後方にある荒野との間に立つ鉄柵にはこの地を訪れた人が残していった南京錠が掛けられていた。
周りは、チワワ砂漠という全米最大の砂漠地帯、いや荒野だ。このプラダショップの背景に広がる広大な荒野とのコントラストが素晴らしい。この作品の光景は、メディアでよく目にすることもありそれほど驚きはなかったが、車で時間を掛けて発見するプロセスを含め、楽しめる作品だろう。アート作品を展示する一つの方策に、わざわざアクセスしにくい場所に設置し、その作品を見るまでのプロセスを鑑賞者に楽しんでもらうというのがあるが、プラダ・マーファは、まさしくこの範疇に入る、体験型作品とも言えるだろう。
私は、日中に二度、夕暮れ時に一度、この場所を訪れたが、いずれも来訪者がいた。夕暮れ時に、先に訪れていた来訪者が去り、作品前の空間が自分だけになり、周辺が静寂に覆われた。陽が沈み周辺が暗くなり始め、店内を照らす灯りが映えると、この荒野に存在する作品の異質性が増大し、この作品が問いかけている何かが伝わってきたような気がした。
作品前の州道90号線は、日中、意外と交通量があること、また、訪問者が多いことを考えると、春から夏にかけての日が長い時期に、夕暮れ時から夜を狙って訪問するのがいいと思う。是非、時間をかけてでも、マーファの町とともに訪れていただきたい。
2023年訪問
基本情報
■ 名称:プラダ、マーファ/Prada Marfa
■ 住所 : 14880 US-90, Valentine, Texas, USA
■ ホームページ:https://www.ballroommarfa.org/prada-marfa/
■ その他
・店内は、夕方になると点灯します(一晩中点灯しているかは定かではありません)。
(described on July 29 2023)