ニューヨーク、危うい臭いがするローワーイーストサイド。穴倉のようなクラブで、パンクを産み出した背景を探す。
ニューヨークシティーには、意外とロック系ライブハウスが存在しない。その代わり、ブルース系ライブハウスとジャズクラブが多い。ロサンゼルスにはロック系が多く、ブルース系とジャズ系が少ないのとは対照的だ。ニューヨークシティーのロック系ライブハウスは、グリニッジビレッジにいくつかあるが、箱としてしっくりきたのは、ボトムライン(*)だけで、あとは、学生が飲みに来るような場所という感じであまり印象に残っていない。結局、ニューヨークシティーのロック系ライブハウスとなると、この CBGB しか思い浮かばない。(本当はロック以外がメインとも言えるかもしれないが)
初めて”CBGB”を訪れたのは92年。イーストビレッジにある”CBGB”周辺は、危険な場所として有名だった。少し東に入ると、行っては行けない場所の代名詞だったアルファベットアベニュー、かつ、少し南に下るとチャイナタウン、すぐ近くにはホームレスの宿泊所もある場所。お金を節約するため、タクシーで行くという選択肢はなく、そもそも “CBGB” に来るような人は、タクシーで来るような人たちではないはずであり、近くの地下鉄の駅 (Bleecker St.)を降りて、街灯のない道路を早足で歩いた。今でこそ、ニューヨークシティーは安全になったが、当時、80年代後半から 90年代に掛けて耳にするのは、危険な話ばかりだった。
このライブハウス、とにかく入口がかっこいい。入口の上に掲げられた、白い庇に赤文字で”CBGB”と書かれたロゴを見ると、感動してしまう。何故感動してしまうのかはよく分からない。人の話や、雑誌や媒体から得た情報が影響しているのかもしれない。店の前を通ると、たいてい人が群がっていた。煙草を吸う人、目当てのバンドが登場するまで待機している人だと思うが、その人々の様子から、その日の演奏バンドの雰囲気を感じることができ、一度は、その様子から店内に入るのを諦めたこともあった。
入口でセキュリティーチェックを受けて中に入ると、このライブハウスの特徴を知ることとなる。奥に細長いのだ。右手にはバーカウンターが続き、左手は食事ができるテーブルが並んでいる。その左手のエリアは、確か、少し高い位置にあるのだが、そこからステージは良く見えない。なぜなら、ステージは一番奥にあるからだ。
入口から一番奥のステージまでは、三十メートル以上はあった。一番奥の中央少し右側にステージがある。広さにして横五メートル、奥行き三メートルという感じだ。ステージ前には、安いパイプ椅子が並び、そこに座って演奏を聞くことになる。
面白いのはステージのすぐ左に、奥に続く通路があり、すぐ右に楽屋スペースがあること、また左手の階段を降りると、トイレがあるということだ。とても世界中に名の知れたライブハウスとは思えない。この少しも飾らないところが、人気を博した要因の一つに違いない。
三回入ったことがあるが、演奏についてはあまりよく覚えていない。ローカルバンドということもあるが、演奏が上手かった記憶はない。ただ、店が持っている独特の匂いと、雰囲気は抜き出ていた。周囲の環境が大きく影響していたことは疑いもなく、もし、ミッドタウンや、グリニッジビレッジに店を構えていたら、この退廃感は出せなかったはずだ。尚、個人的には、この退廃的雰囲気は、ロサンゼルスにあったアルズバー/Al’s Barと同様のものを感じる。ちなみに、このAl’s Barも安全とは言えない場所に位置していた。
CBGBは、2010年にCloseしている。ラスベガスへ移転するという話もあったが、2020 年現在、実現していない。
(*)ボトムラインはグリニッジビレッジにあったライブハウス。1974年から2004年まで営業をし、ブルース・スプリングスティーン、エリッククラブトン、ニールヤング、ダイアストレイツなどの著名人が演奏した。
1992年、1994年訪問
基本情報
■ 名称:CBGB
■ 住所 : 315 Bowery Manhattan, New York City USA
■ 演奏したミュージシャン:Ramones, Television, Patti Smith, Blondie, Joan Jett & Blackhearts, Talking Heads
(described on Dec 30 2018)
(latest update on Jan 25 2020)