インパクト:★★★★☆
空間:★★★☆☆
独自性:★★★★☆
デジタル・アートの専門家集団、チームラボが運営する施設。デジタル・アートに対する疑念を抱きながら館内を歩くと、ある映像に目が止まり、立ち止まる。気が付くと、涙腺が緩んでいる自分がいる。
東京にあるデジタル・アート施設。美術館ともアトラクションとも形容されることがある。デジタル・アートを展開しているチームラボの作品が展示・展開されている場所だ。チームラボとは個人アーティストではなく、デジタル・アートを手がける集団であり、企業としての側面も持つ。この会社の専門家集団がデジタル・アートを制作し、それが空間として展示されている。
会社設立は2001年、2010年以降デジタル・アートの領域に本格的に進出している。特に海外での人気が凄い。デジタル・アートと呼ばれる領域の最前線に位置していることは疑いがないだろう。
現在、東京では二か所で展開されているが、ここでは、2024年2月に開館した麻布台ヒルズにあるチームラボボーダレスについて記載したい。


まず、従来のアート・美術が好きな人にとって、デジタル・アートに対する抵抗感は避けられない部分だと思う。私自身もデジタル・アートには嫌悪感を抱く傾向がある。それは、少なからず、デジタル・アートから文化的な匂いを感じないからかもしれない。その作品の背後にある景色・思想が見えない、あるいは、見えにくいためだろう。もう一つ、子供受けする、ポピュリズムに走る傾向があるように思えることも関係するだろう。デジタル・アートというと、作品に子供が群がる姿を想像してしまう。


まず、最初にこのチームラボボーダレスを鑑賞した感想を書こう。上述したデジタル・アートに対する固定観念を多少なりとも壊してくれた。素晴らしい空間だったと思う。途中、ある映像を見ていて涙腺が緩んだのだが、これは意外であった。後述するが、これは、このデジタル・アートの背景が見えたことが関係している。個人的には、チームラボの記事を書くつもりはなかったのだが、この観点が見えたため、記事を書くことにした。
では、この場所(美術館)について記載したいと思う。
会場は、東京の中心、麻布台ヒルズにある。麻布台ヒルズは2023年開業。住宅とショッピングエリアが混在した場所で六本木が近い。歩いて5分程度の場所には東京タワーがある。簡潔に書くと、いわゆるハイエンドな層を対象とした、ややスノッブな雰囲気を持つ場所である。一般的な生活者にとってはやや距離のある価格帯のエリアであり、ショッピングエリアに並んでいるアイテムも普通とは少し掛け離れている。
チームラボボーダレスは、この場所の地下一階に位置している。この場所だが意外と分かりにくい。後述するが、これは、麻布台ヒルズ自体も店舗の配置が分かりにくく、その構造と関連しているのではないかと感じる。
地下一階に位置しているので、何か外観がある訳ではない。入場券はウェブ購入かつ時間指定のため、チケットカウンターのようなものがある訳でもない(サービスカウンターはあるが)。入口に係員の人が立っていて、スマホでQRコードを見せる。自動ドアが開き中に入ると、QRコードをかざすゲートがある。その後、一定の人数が集まると、自動ドアが開き館内に入り、スクリーンで簡単な説明がある。多少なりとも遊園地のアトラクションの雰囲気を醸し出している。

そして、暗がりの中をLEDで照らし出された階段を降りて館内へ。館内には目立った照明はない。壁にデジタル・アートが映し出されるのだが、そのアートの光が先導してくれるという形式だ。
圧巻なのは、このデジタル・アートが壁の床から天井までを覆っていることだ。デジタル・アートなので、映像機材が必要となるが、天井あるいは目立たない場所に適切に配置されている。
カラフルな色彩で覆われたデザインは、日本文化をイメージするアイテムがほとんどだ。花、木、水、魚、鳥、動物。日本文化の一つの特徴として「自然との調和」が挙げられるが、これを基本的な考え方に置いているのだと思う。
そして、個人的に感動したのが、壁に表れた動物と人間の映像だった。線で描かれた動物と人間が歩いている映像が流れ館内を移動していくのだ。そこには、蛙、兎、熊、猪、牛のような動物が、人間と並んで歩いている映像だった。これは、まさしく、日本文化の大きな特徴である、人と自然(動物)の調和・融和の考え方である。

日本の歴史が好きな人だと、12-13世紀頃に制作されたとされる、「漫画の原点」とも称される「鳥獣戯画」の絵巻物を連想するに違いない。このあたりの歴史とこの動きのあるデジタル・アートが結実し、涙腺が緩んだのだろう。
館内には地図はなく自由に動き回る構成になっている。所々に区切られたエリアがあり、入口付近に係員が立っているが、どこでも自由に入ることができる。作品で多用されているのは、映像、鏡、光。個人的には、鏡を多用しているのが目についた。日本の現代アーティストである草間彌生が得意とするオブジェ、光、鏡を使用した部屋を想起させる場所が見られた。少なからず影響を受けているに違いない。
異なるコンセプトの作品で構成されている空間は全部で10ケ程あったと思う。いずれも、よく練られたことが分かる作品だ。いや、作品という形容は適切ではないかもしれない。空間を提示しているという表現が適切な気がする。
映像と空間は、ホームページ、SNSで共有されているのでそちらを参照いただくとして、個人的に気になった作品・空間だけ、下記に提示したい。
水墨画の画像
水墨画をイメージしていると思われる映像。13世紀に中国から伝わった水墨画は14-16世紀に発展している。禅僧によってもたらされた文化であり、白と黒だけで表現されている。カラフルな映像作品の中で、この映像はいいインパクトを与えている。

蛇あるいは木をモチーフにした画像
これは動きのある作品だが、静止画としても成立しそうな作品。蛇あるいは木をモチーフにした絵が印象的。

植木・盆栽
この作品はトイレ脇のスペースにあったのだが、単体作品で美術館においても通用すると思う。この絵が回転するようになっている。

人と動物が行進する動画
この動画も白黒。確認できた動物は、蛙、兎、牛、熊あるいは猪。これらの動物の間に人の姿が見える。この動物と人が共存している光景がこの動画の鍵となる気がする。この映像は、壁に映像を流している部屋に現れるのだが、部屋の間を徘徊しているようだった。最初、一番大きなカラフルな映像を配置している部屋に、この動物と人間が行進する動画が入ってきて横切って行ったのだが、見入ってしまった。そして、別の場所で、再びこの行進の動画が横切っている時に、再び、映像に見入っている時、涙腺が緩んだ。この場所を訪れている人は、ほぼほぼ、外国人なのだが、日本で生活してきた人であれば、私の涙腺が緩む感覚を理解できるのではないかと思う。


カフェ
一番奥にカフェがあった。照明はなく、運ばれてきたガラス容器に配された飲み物に天井に配されたセンサーが反応し、容器の中の飲み物に花の映像を映し出す作品。採用している技術は非常に高度な気がする。光を扱っているため、部屋の中は真っ暗なのだが、ゆったりしたスペースに、座席が余裕を持って配置されていた。椅子は座りやすいように肘掛けが片方しかないところに感心した。

館内は、7,000m2ということだ。単純に長さで割り出すと、100mx70mということになるが、館内の地図がなく、闇雲に歩いていることと、館内が暗いため、広く感じるに違いない。ちなみに、場所が分からなくなる人は多数いると思う。
良い美術館の一つの条件として、空間構成に複雑さがあることが挙げられるが、この美術館は、この条件を満たしていた。入口と出口も不明確だが、この点も、良い美術館の条件を満たしている。冒頭に記述した通り、この場所がある麻布台ヒルズも、建物の造りが複雑で、目的の場所が分かり辛いのだが、チームラボボーダレスのコンセプトと同期しているように感じた。一貫性があるというのは実は重要だったりするが、自分の中で腹落ちした部分でもある。

館内は、ほとんどが外国人だった。感覚的には8割以上。個人的に気に入った作品を上述したが、これらは、日本文化を理解しているかいないか、あるいは、興味があるかないかが、響くか響かないかに大きく影響してくると思う。そういう意味で、個人的には、日本人の方にも是非訪れて感じるかどうかを試していただきたいとも思う。是非、デジタル・アートに抵抗感がある方も、訪れてみていただきたい。
尚、非常に人気があるため混雑は必至だろう。誰もいない空間で落ち着くというのはないと思う。このあたりが、少し残念ではあるが仕方がないだろう。

最後に、この空間を動かしているシステムはメンテナンスが大変だろうという気がした。どこかで不具合が起こったら、すべてが落ちてしまうのではないだろうか。このあたり、システムの品質の高さとリスク管理に相当気を配っていると想像する。この観点から、日本での運用が現実的なのではないかと感じた。
2025年訪問
基本情報
■ 名称:チームラボボーダレス(麻布台ヒルズ)
■ 住所:東京都港区虎ノ門5丁目9 麻布台ヒルズ ガーデンプラザB B1
■ ホームページ:https://www.teamlab.art/jp/e/tokyo/
■ その他
1) 滞在時間だが、私は冬の18時に訪れ、比較的すいている方だったと思うが、一通り廻って二時間かかった。一部の部屋は、係員が入場をコントロールしているが、私の場合、並んだところはほとんどなかった。混雑時には、おそらく列ができるのだと想像する。以上より、最低でも2時間、混雑時は3時間程度が必要だと思う。
2) 奥にあるカフェは有料。ドリンクには抹茶系の飲み物があるが、なかなか本格的だった。カフェの中は不思議な空間。有料だが、是非入って欲しい。それだけの価値がある場所だと思う。
(described on Mar 21 2026)

