荒野を突き抜ける一直線道路を前にし、遠くに見える吸い込まれていく道路の点を追い、頭の中が「無」に覆われる。
アメリカの荒野を車で走っていると、前方に続く一直線道路に遭遇することがある。日本ではほとんど目にすることがない光景が目の前に現れるとテンションが上がり、道路脇に車を停止させる。車の往来がない場所が多く、相当なスピードで走っている状況から急にブレーキを掛け、路肩に車を寄せると、砂利道で段差があったり、草が生えていたりして、車が衝撃を受ける。車が停止した地点で前方を眺めると、最初に目に入った光景ではないことが多く、誰もいない道路をUターンして後戻りし、車が止められる場所を探す。
アメリカには、都心を離れ人里離れた場所を走ると、比較的簡単に一直線道路に遭遇するが、ここでは個人的にインパクトがあった場所をいくつか紹介したい。これらの場所は、写真が残っているので、荒野を運転中に車を停止させて撮影をしていることになるため、少なからずその景色が響いたということになる。いずれも、都心から離れたアクセスしにくい場所だが、近くの景勝地を訪れる際の参考にしていただきたい。
■イヴァンパーロード / Ivanpah Road
カリフォルニア州南東部、モハベ国立保護区に位置する道路。モハベ砂漠の中にあると言ってもいいだろう。ロサンゼルスとラスベガスを結ぶ15号線のベイカーという町の東に広がるモハベ国立保護区は、ジョシュアツリー生息地、砂丘、ゴーストタウンとバラエティーに富んだ景色が楽しめる場所だ。モハベ国立保護区の北東にイヴァンパーという町があるが、15号線を外れてモハベ国立保護区に入り、このイヴァンパーの町に向かう途中にこの一直線道路は現れる。
順路は、15号線を286番の出口で降り、ニプトンロードを東に走る。約6km走ると右手に入る道がある。この道がイヴァンパーロードだ。イヴァンパーロードに入り、4km走ると道路が左に緩やかにカーブする。ここから一直線道路が始まる。直線距離は約11km、丘陵に道路が吸い込まれていく景色がはっきりと見える。両側は荒野。緑の低木/ブッシュが広がっている。直線道路が始まる地点に立つと分かるが、道路が微妙に下っていて、ある地点で道路が上り傾斜になり、丘陵に入っていくため、道路全体を見渡すことができる。

直線道路が始まる場所から1km走ると右手に入る道路がある。この道路は、サイマ/Cimaというゴーストタウン、さらに南にあるモハベ国立保護区のビジターセンターがあるケルソ―/Kelso、さらに南に走ると国道40号線に抜けることもあり、車の往来があるが、この右折道路を通り過ぎると、その先は、上述のイヴァンパーゴーストタウン、さらにその先は未舗装道路になるため、走っている車はほぼ見かけない。

車の往来がほぼ皆無のこの場所で、道路脇に車を止め、この直線道路を眺めて欲しい。車の往来がほとんどないためか、道路の状態は比較的良い。広大な荒野と人工物のコントラストを楽しんでいただきたい。
■オールド・ナショナル・トレイルズ・ハイウェイ / Old National Trails Highway
カリフォルニア州南東部、いわゆるルート66にあたる。ルート66の正式名称は、ナショナル・オールド・トレイルズ・ロード/National Old Trails Road だが、ここで紹介する区間は、オールド・ナショナル・トレイルズ・ハイウェイ/Old National Trails Highwayとも呼ばれているようだ。
この場所に行くには、まず、ロサンゼルスから10号線と15号線でバーストーまで走り、そこから西に延びる40号線を80km走った所にあるルドゥロー/Ludlowで40号線を下りる。ここからオールド・ナショナル・トレイルズ・ハイウェイが始まる。ルドゥローには古いモーテルとカフェ、ガスステーションがあるだけだが、モーテルとカフェは古き良きアメリカを感じさせるレトロな感じだ。40号線は州間道路だが、モハべ砂漠を走ることもあり、車の数は少ない。が、このオールド・ナショナル・トレイルズ・ハイウェイに入ると、車の数はさらに減る。ほとんど車の姿は見ないし、擦れ違わない。

ルドゥローを西に30kmほど走ると、バグダット/Bagdadというかつてカフェがあった場所を通り過ぎ、ここから次の町、アンボイに向けて最初の一直線道路が始まる。道路が緩やかに下っていて、あるポイントで緩やかに上っているため道路が地平線に吸い込まれるように見える。右手奥に見えるのは、アンボイクレーター、左手には山の連なりが見える。またこの道路の左側、200m程度離れて、道路と並行して線路が走っている。写真には貨物車両が写っている。ちなみに、このあたりの場所は、767日連続して雨が降らなかった記録がある場所だ。

続いて、Roy’s Motel&Cafeが絵になるアンボイ/Amboyを過ぎ、次のシャンブレス/Chamblessの町の手前にある直線道路。右手には、かつてレストランだった「Roadrunner’s Retreat Restaurant」の看板が見える。かつて、このルート66が大陸横断道路として使われていた古き良き時代を想起させる景色だ。


■アンボイロード / Amboy Road
カリフォルニア州の南東に位置するアンボイ/Amboyとトゥエンティ―ナインパームズ/Twentynine Palmsの間を結ぶ道路。この間は70㎞あるが、店らしきものは、トゥエンティ―ナインパームズ手前のワンダーバレー/Wonder Valleyにあるパームズレストランだけで、あとは何もない。トウェンティーナインパームズからアンボイに向かうと、まず丘陵地帯を走る。この地帯を抜けるとアンボイに向かって荒野が見渡せる場所が現れ、一直線道路に遭遇する。道路が吸い込まれていくあたりは白くなっているが、この場所はブリストルドライレイク/Bristol Dry Lake と呼ばれる干上がったソルトレイクであるためだ。この光景が突然目の前に現れ、インパクト十分。


青空、岩山、幻想的な白、低木が広がる緑の間を微妙にうねった直線道路が吸い込まれていく光景は圧巻。このAmboy Roadは三回程走っているが、最初の二回は、Amboyから南下する方向だったため、この素晴らしい景色には気付いていなかった。本当は、この場所に立って、気が済むまでこの光景を眺めていたかったのだが、ビデオを撮影したこともあり停止はしていない。次回通る時は、車を止めてこの空間を身体で感じたい。
■州道246号 / Interstate 246
アリゾナ州北部。アメリカの荒野を走り始めた頃、一直線道路を見て初めて衝撃を覚えた記念すべき場所だ。モニュメントバレーを訪れたあと、ナバホインディアン居留地を東西に通る246号線を走破する出発点付近にあった。西の出発点は、テューバシティー/Tuba City。ここからニューメキシコ州のギャロップ/Gallupまで続く246号は、前半は荒野、後半は所々に町が存在する。最初にこの場所を走った1994年当時は、後半の町の付近では、ナバホの人々がヒッチハイクをする姿が見かけられた。


この場所だが、テューバシティー/Tuba Cityからしばらく走った場所にある。当時、まだカーナビゲーションがない時代に必要不可欠だった道路地図に書き込まれたメモを見ると、Tuba Cityから24マイルとある。道路が上り坂で前方が開けた時にこの景色が目に入った。視界に突然現れたため、慌ててブレーキを踏んだ。路肩に車を止め、前方の絶景を確認してからUターンし、一番見晴らしの良い高台まで移動。一直線道路が確認できる場所は、前方の道路が下り勾配になっていることが必須条件になるが、この場所は、この下り勾配が急であるため、インパクトがあったのだろう。しばらく、この場所に居座っていたが、離れるのが辛かった。
■インディアントレイル、デザートハイツ / Indian Trail, Desert Heights
カリフォルニア州南東部、トウェンティーナインパームズに隣接した場所にデザートハイツというエリアがある。荒野という定義に入る場所だが、住居が点在している。また、道路が縦横斜めに走っている。道路のほとんどは未舗装道路だが、このエリアを徘徊している時に遭遇した場所だ。未舗装の道路を東から西に向かって走っている時に、突然、前方の視界が開けた。道路は下っていて、前方奥に見える山に向かって未舗装の直線道路が続いている。左右に広がる荒野は、低木が点在する不思議な光景だ。直線道路というと、舗装道路をイメージするが、この点からすると特殊な場所とも言えるだろう。

場所は、Desert Heightsの中央を東西に走っているPole Line Rd、Sonora Rd。この通りは、東西に走る道路の名前が途中で変わっている不思議な道だ。東側はPole Line Rd、途中でSonona Rdに名前が変わる。この名前が変わったあたりのポイントが、高台になっている。
また、このあたりは似たような景色の場所が多々あるので、徘徊していれば、思いがけない景色に遭遇できるはずだ。尚、未舗装道路は砂状で、場所によっては車がスタックしそうな場所が点在しているため注意いただきたい(特に、町の北西から南東に向かって斜めに走っている Giant Rock Rd は、車がスタックした時に使う板が放置されていた場所を見かけ、私自身もスタックしかけたので注意が必要)

■インターステート15 / Interstate 15
ロサンゼルスからラスベガスへ向かう途中を走るインターステート(州間道路)。カリフォルニア州とネバダ州の州境に、カジノホテルが集まるPrimm/プリムという町があるが、この町からロサンゼルスに向かう15号線にこの一直線道路はある。
道路は、ロサンゼルスとラスベガスの間を走る幹線道路ということもあり、交通量は多い。一直線道路というと、交通量が極端に少なく、車もほとんど見かけない場所が多いが、この観点からするとこの場所は特殊と言えるだろう。


この道路の両側は、イヴァンパーレイク/Ivanpah Lakeというドライレイクで広大な土地を実感できる貴重な場所でもある。プリムの町から西に向かって走った場合、道路の一番先を見ると、道路が地平線の奥に吸い込まれていくのが分かるが、その一点を凝視していると、自分がいる場所が分からなくなる。また、道路が一直線であるためハンドル操作が不要であること、また、周辺景色が変わらないため、時速120-30㎞で走っていても、その速さを実感できず、不思議な感覚に襲われる。


車のクルーズコントロールをオンにし、時速を80マイル(約130㎞)に固定、右足はアクセルとブレーキから離し、前方に見える地平線に続く道路だけに視線を置き、時々、左右に広がるイヴァンパーレイクを眺め、再び、前方に視線を送る。この一連の行為は、思考回路を「無」の状態にしてくれる、体感したことがないプロセスだ。地図で確認すると、この一直線の距離は15㎞程度なのだが、いつ来ても、この体感したことがないプロセスに驚愕し、非日常感に圧倒されてしまう。
■ケル・ベイカーロード / Kel-Baker Road
ロサンゼルスからラスベガスへ向かう15号線の途中にあるベイカーから、モハベ国立保護区にあるケルソー/Kelsoに向かう途中の一直線道路。モハベ砂漠に位置している。ベイカーは、ロサンゼルスとラスベガスを車で移動する時、休憩地点として使用される場所だ。世界一高い温度計のランドマークがある場所として、一部の人に名が知れている。

ベイカーの町から南東に向かう道路がある。ケル・ベイカー道路だ。ロサンゼルスから走ってきたインターステート15を降り、インターステートと並行に走る道路を走る。町の中央にある信号機がない交差点を右折する。インターステートの上を跨ぐ高架橋を過ぎると、前方左右に見えるのは何もない荒野。無音の世界に覆われる。そして、10分程走ると、一直線道路が現れる。前方に見える山の中に吸い込まれるように続く道路は、陳腐な表現だが、美しい。

ベイカーという比較的大きな町の存在からすると、少し走ったところにこの光景があるのは非常に貴重だ。また、このベイカーの存在にも関わらず、走っている車は極端に少ない。しかも、ベイカーで受信できていたFMラジオ電波は、すぐに受信できなくなる(昔の話だが)。ベイカーでは、比較的人の姿が確認できる環境でガスを入れ、レストランに入って食事ができるが、この状況とのギャップがインパクトをもたらす要因かもしれない。
尚、この道路をさらに30分程走ると、ケルソーに到着する。鉄道の駅として機能しているが、ゴーストタウン的な場所とも言える。欧州風建造物の駅舎が建ち、現在はモハベ国立保護区のビジターセンターとして機能している。なかなか味のある場所なので、是非立ち寄っていただきたい。

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基本情報
■ 上述の各場所の下に地図を入れています。
(described on Oct 12 2025)
