ストックホルム近代美術館 (Stockholm, Sweden)

スウェーデン、ストックホルム。北欧のデザイン王国で、思いがけない作品を見付け驚愕する。

スウェーデンと言うと「イケア」を思い出し、「家具」が頭に浮かぶかもしれない。また、思想的に前衛的な人が多い印象を持つ方もいるかもしれない。個人的には、スウェーデンの仕事に少し関わっていたこともあり、スウェーデン人と関わったことがあるが、前衛的というより、どちらかというと堅実な人が多い印象がある。勝手な意見だが「学校の先生」みたいな人が多い気がする。「学校の先生」タイプの人が、美術館にやってきて、絵の前で意見交換するというイメージ。個人のイメージだが、大きくずれてはいないのではないかと勝手に思っている。

また、スウェーデンを含む北欧は夏と冬では天と地ほどの差がある。夏は降り注ぐ陽光を浴び綺麗な街並みを歩くと、ここは世界一住みやすい場所なのではないかと思う一方で、冬になると陽が昇っている時間が短いこともあり、一日中暗い印象しかない。そして、この寒くて暗い環境より、家の中にいる時間が長くなり、家具デザインが進化することになる。

ということで、この美術館は、スウェーデン、ストックホルムにある近代美術館。街の中心街から少し歩いた海に浮かぶ島にある。島までは橋がかかっている。場所は分かり辛かった。私が訪れたのは冬だったので既に暗くなっていて、建物が判別しにくかったことと、建物が極めて普通に見えたことも関係しているだろう。

美術館自体は、絵画、彫刻、オブジェ、映像作品がバランスよく展示されている。例えば、アンディー・ウォーホールの作品はあるが、リヒテンシュタインはないという感じで理解していただけるだろうか。また、館内には作品のスケッチをしている人、ベンチがあるにも関わらず、床に座って寛いでいる人がいたりと自由な雰囲気だった。

さて、この美術館を個人的に特別なものにしているのは、河原温の作品である。「日付絵画」 が飾られていたのだ。とても個人的な話になるが記載させていただく。

私が訪れた時、彼の作品は前半に登場した。「あっ、あるなあ、さすが知名度が高いなあ」と思いながら壁に掛けられた三枚の「日付絵画」に視線を置いた。普通、こういう時は左から右へ見ていくのだが、この時は、なぜか右から左に視線を動かした。一番右にある「日付絵画」 の日付を確認し、次に中央に配された「日付絵画」 の日付を確認し、最後に一番左にある 「日付絵画」の日付に視線を移した。

そして、その日付を見た瞬間、形容し難い驚きが私を襲った。その日付は私の誕生日だったのだ。私は目を疑った。何しろ、河原温はこの「日付絵画」を1966年から2013年まで50年弱書き続けていたのだ。この「日付絵画」のコンセプトは、その日の深夜12時までに完成しなければ廃棄すること、また、当然、毎日作品に取り掛かった訳でもないだろうから、一年間に50点作品を生み出していたとして 2400点程度(50点x48年)ということになる。(後日、美術館で展示されていた作品横の説明書きに「3000点近く制作した」との記述を発見した)。

そして、その3000点の中の特別な一枚を目にすることができたことになる。私が生まれた日に河原温が作品を造る確率を30%、作品がマーケットに出る確率を30%、ストックホルム近代美術館が、私の生まれた日の「日付絵画」を購入する確率を2%、ストックホルム近代美術館が、河原温の「日付絵画」を展示する確率を30%、私がスウェーデン近代美術館を訪れる確率を10% とすると、私が、私の誕生日の「日付絵画」を鑑賞する確率は、30%x 30% x 2% x 30% x 10% =0.0054% ということになる。

  • 私が生まれた日に河原温が「日付絵画」を制作する確率:30%
  • 作品がマーケットに出る確率:30%
  • ストックホルム近代美術館が、私の生まれた日の「日付絵画」を購入する確率:2%
  • ストックホルム近代美術館が河原温の「日付絵画」を展示する確率:30%
  • 私がスウェーデン近代美術館を訪れる確率:10%

    合計発生確率:0.0054%

改めてこの数字を見ると、これは僥倖だったという気がする。この美術館では写真を撮ることができたため、この写真はフォトフレームに入れて家に飾られている。本当は購入したいのだが、まだ、ストックホルム近代美術館にコンタクトはしていない。おそらく、するべきではないのだろうし、したくもないのだろう。(*)

ちなみに河原温は2014年6月に亡くなられている。亡くなられた年にこの出来事があったというのは必然のような気もしてしまう。

(*) 2023年2月、東京、天王洲のギャラリーで、偶然、河原温の「日付絵画」に遭遇した。12枚の「日付絵画」が展示されていたが、2枚が販売されていた。販売されていた日付は「1996年1月1日」と「1967年5月1日」。「1967年5月1日」は、オレンジ色(人参色)で塗られた珍しい作品だった。さてその値段だが「1996年1月1日」は、高級感のある一軒家が建てられる金額。「1967年5月1日」は、東京品川区、目黒区あたりで、2LDKの中古マンションが購入できる価格だった。「1967年5月1日」は、その色の珍しさからなのか、展示初日に即売したということだ。

2014年訪問。

​基本情報

​■ 名称:Moderna Museet
■ 住所 : Exercisplan 4, 111 49 Stockholm, Sweden
​■ ホームページ:https://www.modernamuseet.se/stockholm/en/