マーファ / Marfa <現代アートの聖地>

テキサス州、マーファー。ドナルド・ジャッドが開拓した現代アートの聖地で、テキサスの人々の温かさに触れる。

アメリカ、テキサス州西部にある街。人口2000人程度の街なので、「町」と書くのが適切かもしれない。アートの町として有名な場所だ。ミニマリズムの代表作家であるドナルド・ジャッドがニューヨークからこのマーファに移り住み、1986年にチナティー・ファンデーションという美術館を設立したことが、マーファがアートの町として進化したきっかけとなっている。

一番近くの大きな街は、テキサス州エルパソ。エルパソから車で荒野を走り抜け3時間の場所にある。テキサス州の中でもアクセスしにくい場所だ。一帯はアメリカ最大のチワワ砂漠。砂漠、荒野の中のオアシスとも言える。

マーファには、ドナルド・ジャッドが設立した美術館に加え、多くのギャラリーが存在する。ビジターセンターに置かれていたA4 の紙には21ケ所の美術館、ギャラリーがリストされていた。同様に、ビジターセンターに置かれていた他のA4 の紙にリストされていたレストランは19ヶ所、バー:8ヶ所、カフェ:5ヶ所、ショップ:28ヶ所だった。

町の象徴となる建物は、中心にある裁判所だ。この欧州の雰囲気を醸し出す建物の正面にはマーファの中心となるハイランド・ストリートが走り、両側に店が並んでいる。このハイランド・ストリートから裁判所を臨む光景がこのマーファの町の代表的な光景だ。

上述のレストランやショップの数だけ見ると賑やかな場所のように思えてしまうが、上述の町の中心も、店が並んでいるのは50m程度の間であり、あくまでもアメリカの田舎町という形容が正しいだろう。というのも、店舗の多くは毎日営業しておらず、週末だけの営業だったりすること、また、夕方には店を閉めるところがほとんどだからだ。

ただ、普通の田舎町と違うのは、現代アートのギャラリーがあること、洒落た雰囲気のレストラン・店舗があること、町を訪れる訪問者が若いことだ。私は、水曜日から金曜日の3日間滞在したが、町の中心を歩いていると、通りを歩く若者の姿が目に入り、そのファッションから、ロサンゼルスの西にあるウェストウッドあたりを歩いているのではないかと錯覚するほどだった。

そして、何よりも町の人々が生き生きしている。美術館、店、レストランと自然と会話が始まる場が何度となくあり楽しかった。以下に、特に印象に残った場所について列記する。この町だけを訪れるためにアメリカに来るというのも十分ありと思える場所だ。是非、訪れていただきたい。

  • Hotel Paisano/ホテル・パイサーノ

まずはホテルから。マーファには、二つの有名なホテルがある。このホテル・パイサーノと次に記載するホテル・セントジョージだ。二つとも歴史あるホテルだが、このホテル・パイサーノは1930創業。途中改築はあったが、当時の面影を残す歴史あるホテルだ。有名なのは、ジェームス・ディーンとエリザベス・テイラーが出ていた映画「ジャイアンツ」のロケ班が宿泊したホテルということだ。1955年の話。

ロビー、フロアの廊下には、この「ジャイアンツ」のロケ風景の写真が飾られていた。部屋は広くはないが心地良い。歴史を感じる場所だ。噴水が中庭にあり奥にはプールもある。プールは泳ぐような広さではないが、昔はこれでも「贅沢な設備だったに違いない」と、感慨に耽ることができる。レストランも昔の面影を残したいい感じ。夕食は名物のピスタチオフライドステーキ/PISTACHIO FRIED STEAKを食べて欲しい。尚、レセプションでは手書きの宿泊記帳を扱っていて、チェックインするときにホテルのスタッフが、その記帳に書かれた名前を確認している姿が印象的だった。

  • Hotel Saint George/ホテル・セントジョージ

もう一つのマーファを代表するホテル。1886年創業。現在のホテルは2016年に建て替えられたデザイナーズホテルだ。ホテルの建物を入ると、照明が暗めで都会のホテルのような雰囲気。部屋は広々としていて、シャワールームも豪華だ。前述のホテル・パイサーノとは正反対。宿泊客は若者が大勢だった。

夜になると一階のロビー横のバーエリアは人で溢れていたし、奥にあるレストランにあるバーカウンターも若者で席が埋まっていた。このテキサスの田舎の町には似つかわしくないホテルだが、非日常感に溢れたホテルだ。尚、道路を挟んだ敷地には宿泊客専用のプールがある。ロサンゼルスの高級ホテルのプールを彷彿とさせる洒落た感じで、気後れするほどだった。値段もそれなりだが、マーファで快適に過ごすということであれば、このホテルが最初の選択肢となるだろう。

  • Chinati Foundation/チナティー・ファンデーション

冒頭に記載の通り、ミニマリズムの代表作家であるドナルド・ジャッドがニューヨークからこのマーファに移り住み、1986年に設立した美術館。広大な敷地にインスターレーション作品が並んでいる。一言で形容すると、「凄い」。詳細は、別の記事を参照。

チナティー・ファンデーション
  • Judd Foundation/ジャッド・ファンデーション

ドナルド・ジャッドの作品を鑑賞できるもう一つの美術館、正確には、Judd財団が主催するツアーで、ドナルド・ジャッドが活動していた場所を廻るというもの。町の中央にある旧銀行の建物とその裏手の敷地にある建物、さらにその奥にある小さな倉庫のような建物を廻る。ドナルド・ジャッドは、家具の設計にも携わっており、建物の中に配置された椅子、テーブルなどを鑑賞する。家具デザインに興味がある人は訪れるべきだが、上述のチナティー・ファンデーションとどちらかだけしか訪問する時間がないということであれば、迷わず、チナティー・ファンデーションをオススメする。

  • Ballroom Marfa/ボールルーム・マーファ

町の中心から少しだけ外れたところにあるマーファを代表するギャラリー。コンテンポラリー系。このBallroom Marfaは、マーファから車で30分程離れた90号線脇にあるインスタレーション:プラダ・マーファの運営を行っているギャラリーの一つだ。倉庫のような建物は広くはないが、テキサスの田舎にあるギャラリーとは思えない内装だ。尚、庭もあり展示が行われている。

プラダ・マーファ
  • Ayn Foundation/エイン・ファンデーション

町の中心、ハイランド・ストリートにあるギャラリー。外からは中が見えないように窓ガラスが目貼りされている。通りを歩いている限りでは、空き家のようにも見える。このギャラリーには二つのスペースがあり、入口が分かれている。一つの部屋には、アンディー・ウォーホルの「ラスト・サパー」の絵だけが展示されていた。3mx10m程度のキャンバスにレオナルド・ダビンチの「最後の晩餐」をモチーフにした絵が描かれている。黒一色、筆書きだ。部屋にいたこのギャラリーの年輩の男性の方と話をしたところ、この作品について、「最後の晩餐を書いているんだけれど、色がないんだよ、忘れたんだろうね」と説明してくれた。その面白い説明に話が弾み、長々と話をした。楽しかった。尚、このLast Supperは、このギャラリーで20年展示しているということだ。

  • Gallery Max Hetzler/ギャラリー・マックスヘツラー

町の中心から車で5分程走った場所にあるギャラリー。2022年オープン。未舗装道路を走ると、敷地内入口に牧場や農場のゲートを思わせるアーチ状の門があり、50m程奥に白い建物がある。周りは荒野。入口から中に入ると、中は20mx8m程度のスペース。二階建てだが手前は吹き抜け、高さは5mほど。私が訪れた時は大版の絵が壁に並んでいた。奥にギャラリーのスタッフの方がいて上階への階段がある。二階はソファーが並んでいて商談を行う場所のように見えた。何もない場所でもギャラリー運営が成り立つ点が、このマーファの町がアートの町として成立している所以かもしれない。

  • The Sentinel/ザ・センティネル

カフェを二つ。このThe Sentinelは、ほぼ町の中心にある。前述したホテル・セントジョージから歩いて4分の場所、営業は朝7時半から午後3時まで。尚、マーファにあるカフェは朝と昼しか営業していないところがほとんど。このカフェだが、ゆったりとした店内に洒落たインテリアが心地良い。金曜日の朝9時頃訪問。カウンター前に行列ができていたが、店内奥と庭には十分すぎるほどのスペースがあり、ゆったり寛げた。ロサンゼルスにこのスペースと空間があったら満員になってしまうだろう、そういう秀逸な空間。もしマーファに住んでいたら、頻繁に足を運んでしまうに違いない。そういう場所だ。

  • Big Sandy Coffee/ビッグサンディーカフェ

町の中心から西に延びる90号線脇のトレーラーハウスにあるカフェ。店主と思われる顎髭を蓄えた楽しい店員の方がいる。何故か、私たちが訪れた時はベーグルを一つ無料にしてくれて、試飲用と称して新作のコーヒーを一杯追加で提供してくれ意見を求められた。また、ヒューストンから来ていた一人の来客と店員の方との間で掛け合い漫才のような会話が始まり、途中で店に入ってきた客は、紙に包まれたチーズを取り出して、店員の人に「冷蔵庫に入れておいてくれないか?」と頼み、テーブルでパソコンを広げて作業を始めていた。不思議な、かつ、楽しい空間。

  • Esperanza Vintage&Art/エスペランザ・ビンテージ&アート

町の中心、ハイランド・ストリートにあるショップ。店内には、雑貨、ビンテージ服、アート作品が並んでいる。写真、絵が並んでいて、気になるものがあり、店員の女性と話になった。その後、店内にあったボクサーの絵の話になり、店員の女性の旦那さんが描いた絵であることが分かり、ボクシングペインティングで有名な日本のアーティスト「篠原牛男」の話になり、話が弾んだ。

2023年訪問

基本情報

​■ 名称:マーファ/Marfa
■ 住所 : Historic USO Building 302 S. Highland Avenue, Marfa, TX USA (Marfa Visitor Center)
​■ ホームページ:https://visitmarfa.com/visit