かつてのインカ帝国の首都、クスコ。特殊な街の景観に驚き、石畳の道を歩きながら、ピスコサワーによる酔いなのか、この街に酔っているのかわからなくなる。
ペルーの内陸部にある都市。かつてのインカ帝国の首都である。インカ帝国という響き、また、人から、この街の素晴らしさについて耳にしていたため、いつかは足を運びたい場所だった。
私は、首都であるリマから飛行機で入った。クスコは標高3400mにあり、飛行機で一気に入ると高山病になると言われていたが、空港に到着すると、空港の雰囲気と、空港の外に出た時の太陽の眩しさに圧倒され、高山病を気にすることを忘れていた。空港は、古い小さな空港で、空港を出るとタクシーの呼び込みの人が集まってきたが、一旦スルーして歩き回った後で、タクシー乗り場のようなものがないことに気付き、近くにいた人にお願いして、市内に入った。とにかく、陽射しが強かった。私が訪問したのは、4月だったが、タクシー運転手によると、この時期は晴天が多いということだった。
タクシーに乗ってしばらくしてから、少し息苦しさを感じ、「クスコの標高はいくつでしたか?」とタクシー運転手に訊くと、「3397mだよ」と、一メートル単位まで言うのが不思議だった。
南米の街の多くは、街の中心に広場があるが、クスコにも広場がある。アルマス広場だ。街を歩き始めたのは、陽が暮れてからだったが、この広場に向かって、石畳の道を歩きながら、周辺の空中に灯が連なっているのに驚かされた。その驚きは、アルマス広場に到着し、中央から360度見まわすと、さらに増幅され、また、広場に面した教会前の道路で、多くの若者が踊っている光景と同期し、今まで、あまり見たことがない場所であることが理解できた。
広場に面したレストランに入り、二階席から広場全体を見渡していると、広場には大勢の人が集まって思い思いのことをしており、しばらく眺めていると、ガルシア・マルケスの小説の情景描写が頭に浮かんだ。
翌日の朝、再び、アルマス広場を訪れると、昨夜見えた灯の正体が明らかとなる。この広場、街の周りは丘のようになっていて、その丘に家が立ち並んでいるのだ。アルマス広場とその周辺は、すり鉢状の地形の底にあるということだった。広場のベンチに座り、今まで見たことがない風景を楽しむ。この場所を体感するだけでも、クスコを訪れる価値があると思う。
広場にいると、お土産売りの女性に声を掛けられる。だいたい、この手のものはスルーするのだが、この時は、爽やかな気候と、この場所の特殊性に感嘆していたこともあり、会話を始めた。その民族衣装を身に纏った女性は、多少の英語が話せ、私の片言のスペイン語と共に会話を始めた。30分は話していただろうか、楽しかった。彼女の身の上話から、フジモリ大統領の話まで、会話が弾んだ。もちろん、彼女の最終目的は、手にしていたお土産を買ってもらうことなのだが、購入してもいいなあ、と思わせてくれた。
フジモリ大統領について、彼女は褒めていた。テロリストを撲滅させた人であり、「子供がテロリストにならなくなった」という表現をした。フジモリ大統領は、2019年現在、リマの刑務所に収監されているが、この人の知名度の高さについては驚かされた。タクシーの運転手、街の人、ガイドの人、ペルーで会った人、10名程度の人にフジモリ大統領のことについて訊いたが、全員が知っていた。この人が大統領をしていたのは、およそ20年前の話にもかかわらずだ。20代前半の若者が、普通に知っていたことも驚きであった。ただし、フジモリ大統領について否定的な印象を持っている人もいたことを付け加えておく。
クスコでは何をするか、であるが、とにかくアルマス広場周辺を歩き回ってほしい。南米をよく知らない人にとっては、今まで感じたことがない何かを体感できると思う。尚、インカの石造建築で「カミソリの刃一枚すらも通さない」と多くの人に知られる「12角の石」は、アルマス広場から200メートルほどの場所にある。普通の石畳の道路沿いの壁で、人が立っていないと気付かずに通り過ぎてしまうような所だ。
この街の地形の特殊性については前述の通りだが、街全体を上から俯瞰するという意味では、街の北にある「サクサイアマン遺跡」に行くことをお勧めする。ここに、クスコの街全体を眺めることができるポイントがある。私は、この光景に酔いしれ、一時間程、その場を離れることができなかった。
さて、冒頭に述べた高山病についてだが、飛行機でこの街に入った翌日、街を歩き始めた時、足取りが重く、息が上がったが、幸いなことに致命的ではなかった。私は、昔、チベットのラサ(標高3700m)を訪れたことがあるが、その時には、苦しくて夜眠れなかった。おまけに、その時は、酒を煽るように飲んで気を失っている。今回、クスコに入るに際し、事前に調べていたのは、リマからバスで入るのが高山病になりにくいということだったが、時間がもったいないので、飛行機で入った。
私は二つの対策を講じた。一つは、メキシコシティー経由でペルーに入ったこと。メキシコシティーは標高2250m。ここで、数時間であっても、トランジットで身体を慣らすことができるのではないかと考えたのだ。もう一つは、よく言われることだが、ダイナモックスを、日本で処方してもらい、前日から口にしたことだ。効果があるかはわからないが、精神的な部分でも効き目がある気がする。尚、アルコールについては、控えめにしておいた方がいいだろう。私は、滞在後半にピスコサワーを飲んで、気に入ってしまい、煽るように飲み始めるところだったが、ラサでの経験を思い出し、何とか思いとどまった。ピスコサワーはペルーにあるカクテルで、レモン味でクリーミーで飲みやすい、癖になる飲み物だ。
もう一つ、クスコ内を移動する足だが、街中は歩き回ってもらえればいいが、少し離れた場所に行く場合には、ウーバー(Uber)を使うのがいいと思う。この場所では、とにかくウーバーが役に立った。私が乗車したウーバーの運転手は、一人も英語を話さなかったが、ウーバーは言語不要であるし、一方で、私の片言のスペイン語にも、快く付き合ってくれる人々で、旅が楽しくなった。是非、活用していただければと思う。
2019年訪問
基本情報
■ 名称 : クスコ、ペルー
■ ホームページ: https://whc.unesco.org/en/list/273/ (City of Cuzco, UNESCO)
(described on Nov 28 2020)