瀬戸内海に浮かぶ芸術の島。建物に足を踏み入れ、目の前に現れる非現実空間に陶酔する。
香川県、直島にある現代美術館。直島は、ベネッセハウスが1992年に開館し、2004年にこの地中美術館が開館。その後、2010年に瀬戸内国際芸術祭が始まると、現代芸術の島として、世界的に有名な場所となった。東京からだと飛行機で高松空港に入り高松港へバスで移動、高松港からフェリー、そしてフェリーが到着する宮浦港からバスで15分程度。合計4-5時間というところだろうか。時間だけ見るとそれほど遠いという気もしないが、飛行機、バス、船、バスと乗り継ぐと、さすがに「遠いなあ」と思う。
最初に訪れたのは、第1回「瀬戸内国際芸術祭」開催期間中だった。もの凄い人で、美術館のチケットセンターに到着すると整理券を配られ、入場するまで1時間以上待たされたが、待たされたことを忘れる程インパクトの強烈な場所だった。尚、2018年より、入場はオンラインチケットによる予約制となっている。おそらく来場者が多すぎるためだろう。
まず、驚かされるのが、展示室に到着するまで歩かされることだ。チケットセンターから歩いて数分のところにあるゲートを通り、しばらく歩くと建造物の中へ。安藤忠雄設計のコンクリート剥き出しの建造物の通路を歩くと・・・・。ここからは実際に歩いて確認していただきたい。地中美術館から歩いて10分程度の場所に、これも安藤忠雄が設計した「李禹煥(リ・ウーファン)美術館」があるが、この美術館も含め「明確な入口を造らない」というのが一つのテーマなのではないかという気がした。この不明確さが、訪問者にワクワク感を創出させる一つの要因になっているに違いない。
展示室がある建物に入ると、非現実感が漂っているのが分かる。展示室に入るとさらにその非現実感は増大する。この美術館には、モネ、ジェームス・タレル、ウォルター・デ・マリアの作品しか展示されていないが、いずれも素晴らしい。
特にウォルター・デ・マリアが展示された部屋は非現実空間そのもの。部屋の中央に配置された球体が、その非日常空間を一段階上のレベルに引き上げている。現代美術館における非日常空間という意味では、個人的には、数ある現代美術館の展示室の中でここがNo.1かもしれない。空いている時には、階段に座って異質空間の感覚を脳に刻み込んでいただきたい。尚、展示室内には、時々ドラムの音が鳴るということだが、私は30分座っていたが聞くことができなかった。スタッフの方の話だと1時間に数回鳴っているということだった。ただ、ドラムの音は聞こえなかったが、時々、金属を弾くような微かな音が聞こえた。
ジェームス・タレルは三作品が展示されている。「アフラム、ペール・ブルー/1968年」「オープン・スカイ/2000年」「オープン・フィールド/2004年」。この三作品は、ジェームスタレルの光を題材とした作品の進化体系を知るという意味で、ここに並んだ順番に鑑賞するのがいいと思う。
スタッフの方との会話から、オープン・フィールドは、2004年以降進化しているとのことであり、おそらく、オープンスカイも進化しているのだと想像する。金曜日と土曜日の夕方に行われている 「オープンスカイ・ナイトプログラム」は、是非体感していただきたい。
この美術館は、地中に作られていることもあり、スペースは限られているが、設計の素晴らしさから心地良い空間を与えてくれる。加えて、歩いていると「この先はどうなっているのだろう?」という好奇心を引き出してくれる空間とも言えるだろう(きっと、ウォルター・デ・マリアの部屋に辿り着けない人がいるに違いない、という気がしている)。
また、この美術館への入場が時間制となっていることもあり、展示室の中にいる人の数が限られることも、この空間を特殊なものにしている一つの要因のはずだ。二回目の訪問時は冬だったため、訪問者が非常に少なく、各展示室とも空間を独占できる状態で非日常感たっぷりだった。館内は広くはないが贅沢な空間だ。是非、足を運んで体感していただきたい。
ちなみに、館内は写真撮影禁止だった。「今時、写真撮影を認めない美術館なんて」と思ってしまうが、写真撮影を認めたら写真を撮る人で溢れ返り、鑑賞する感じではなくなるだろう。そういう意味で、写真撮影禁止に納得してしまう珍しい美術館でもある。
2010年、2022年訪問
基本情報
■ 名称:地中美術館
■ 住所 : 3449-1 Tsumuura, Naoshima-cho Kagawa-gun, Kagawa-ken
■ ホームページ:http://benesse-artsite.jp/art/chichu.html
(described on Feb 10 2019)
(latest update on Mar 27 2022)