ニューヨーク、マンハッタン SOHO。 館内に入りしばらくすると、館内は静寂に包まれる。広大なスペースに黄銅色の真鍮が放つ光が交錯する。ベンチに腰を下ろし、作品と対峙する。天井に設置された蛍光灯が放つ微かな電子音が聞こえる。
ウォーター・デ・マリアは、アメリカのアーティストで、多くのインスタレーション作品を残している。日本では、直島美術館にある、球体が階段上の空間に置かれた作品がすぐに頭に浮かぶが、ここでは、ニューヨークにあった彼の作品を紹介しておきたい。

場所は、マンハッタンSoHoエリアにあるギャラリー。Dia Art Foundationという団体が運営している場所で、ウォーター・デ・マリアの作品、「The Broken Kilometer」だけを展示している。
まず、最初に結論だけ書かせていただく。単純な形容で申し訳ないが、凄い。圧倒された。
マンハッタンに並ぶ5階建てぐらいの建物の1階の扉を開け中へ入る。そこには目の前に真鍮の棒が並ぶ爽大な光景が。光を放った真鍮の棒が、手前から奥まで規則正しく並んでいる。スペースは、横15m、奥行き50m程度。私が中に入った時には、既に3名の若者が空間の前にあるベンチに座って作品を眺めていた。素晴らしい、圧巻の光景。


この真鍮の棒だが、規則正しく設置されている。作品の説明のところに書かれてある内容を下記する。
500 highly polished, round, solid brass rods
5 parallel rows of 100 rods each
Each rod measures 2 meters in length (6.6 feet)
and 5 centimeters in diameter (2 inches)
The spaces between the rods increase by 5 millimeters
The first two rods of each row are placed 80 millimeters apart, the last two rods are placed 570 millimeters apart
522.6 square meters of floor space (5,625 square feet),
illuminated by stadium lights
Total weight of sculpture: 18 3/4tons
Total length of sculpture (if all of the elements were laid
end to end): 1,000 meters (3,280.8 ·feet)

要するに、並んでいる500本の真鍮は、1本の長さが2mであるため、もしすべてを横に並べたら500本x2m=1000m(1km)になるということだ。従い、作品名も「The Broken Kilometer」ということになる。
ベンチに座っていた若者が立ち去り、館内が静寂に包まれる。広大なスペースに黄銅色の真鍮が放つ光が交錯する。私はベンチに腰を下ろし、作品と対峙する。天井に設置された蛍光灯が放つ微かな電子音が聞こえる。
作品に向かって右側にはテーブルがあり、係の女性が座っていた。3名の若者が去ったところで、係の女性に質問する。
「棒は固定されているのですか?」
女性は、模型のようなものを見せてくれる。床に固定されている方法は4つ程度あり、分けて採用されている。これは、この床が奥に向かって少し高くなっていることが関係しているという説明だった。床が斜めになっていることについては、パンフレットには記載されていなかった。
「私は日本から来ましたが、直島にあるウォータ・デ・マリアの作品は凄いんですよ」
「ああ、これですね」と言って、女性は、写真集らしきものを取り出して見せる。「私は2023年に行ってきました。素晴らしかったです」
「私は、昨年Lightning Rodに行こうとしたのですが、ダメでした」
私は言う。
「抽選ですよね、すぐに埋まってしまうんです」
写真撮影がダメなことに付いて訊くと、作家の意思ということだった。写真を撮ることではなく、作品を体感してもらうことが目的なので、禁止にしているという説明だった。
「ああ、理解できます。直島にあるウォーター・デ・マリアの作品は写真を許可したら大変なことになると思います」
私は続ける。「でも、写真を許可することによって、情報が広がる気がするのですが」
女性は私の顔を見て頷き、少し間をおいてから言った。
「Diaのコンセプトは、大勢の人に来てもらうことではないのです」
この場所と展示だが、1979年から行われている。実に50年近くということになる。この事実が、女性の最後の言葉に表れているのかもしれない。
ニューヨークには、素晴らしい美術館がある。近代美術館(MOMA)、メトロポリタン美術館、グッゲンハイム美術館。ただ、この場所も忘れずに訪れていただきたい。何かを体感できるに違いない。
2025年訪問
基本情報
■ 名称:ウォーター・デ・マリア/ The Broken Kilometer
■ 住所 : 393 W Broadway, New York, NY, USA
■ ホームページ:https://www.diaart.org/ (Dia Art Foundation)
■ その他
・私が訪れた時の営業時間は、水曜日から日曜日の12時から15時と15:30から18時だった。
・入場は無料。私が訪れた時は、女性のスタッフの方が一人待機していました。
(described on Sep 6 2025)