Art Factory 城南島_贅沢な空間に身を置く

東京都、大田区の倉庫街。カーボン紙の塊の迷路を通り抜けると、一万個以上のレンガが敷き詰められた空間が現れ、誰もいない静寂な空間で瞑想に耽る。

三島喜美代さんは、2024年6月19日に逝去されました。ご冥福をお祈りします。本ギャラリーの1階の広大なスペースに展示されていた煉瓦を敷き詰めた作品「20世紀の記憶」は、練馬区立美術館(2024/5/19~2024/7/7)で行われた「未来への記憶」という回顧展への展示のため撤去されていました。2024年12月7日時点で確認したところ、1階のスペースに「20世紀の記憶」の作品が戻ってくるのかも含め、未定ということでした。

東京都大田区にある美術館、いや、ギャラリー、いや、名称の通りFactory。京浜東北線の大森駅からバスに乗って30分弱。城南島という倉庫街の人工島にある。「城南東二丁目」で下車、すぐ近くに建物がある。外から見ると、小綺麗なオフィスビルに見えるが、もともと、東横インの倉庫だったということだ。

中に入ると、常設展示として、三島喜美代 (Mishima Kimiyo) の一連の作品が展示されている。三島喜美代は、天王洲アイルの東横インの前に、大きなゴミ箱のオブジェの作品を目にして知っていたが、この常設展はインパクト充分だった。1932年生まれということなので、本記事執筆時は91歳。

建物を入ると受付、左側に常設展のエリアがある。三島喜美代のテーマは、廃棄された新聞紙、段ボール、空き瓶、空き缶などの資源のようで、最初の部屋に展示されているインスタレーションもなかなかインパクトがある。と思って奥に進むと、今度はカーボンに新聞紙がプリントされた塊が積み上げられた空間が現れ、これが迷路状になっている。歩いていると楽しくなる空間。アーティストの意気込みを感じることができる。

そして、その迷路のような通路が終わると、広大なスペースが登場する。小中学校の体育館を想起させる空間の床に、新聞記事が写し込まれた煉瓦が敷き詰められている。その数は一万個以上だという。煉瓦に写し込まれた記事を眺めると、この作家の興味がある分野が感じ取れる。環境問題、政治問題などなど。作品のタイトルは「20世紀の記憶」。

私は二度訪れているが、二度とも誰もいなかった。この広大なスペースに自分だけ。何とも贅沢なスペースだ。地方で行われる芸術祭で、閉校した学校の体育館や、使われていない倉庫スペースにスケールの大きな作品が展示されているのを目にすることはあるが、東京でこの空間と作品を目にできるのは非常に貴重だ。

この場所だが、端に螺旋状の階段がありキャットウォークを歩くことができるようになっている。そのキャットウォークに沿って、ピカソが、写真家+詩人と共同制作した写真が展示されている。

建物の3階には浮世絵の展示があり、4階にはアーティストが作品制作を行うスタジオが並んでいる。二度目の訪問時は、このスタジオが公開されており、10程度の区切られたスペースがあり、数名のアーティストが制作中であった。

この美術館がある城南島は海を挟んだ向かい側に羽田空港があり、建物の屋上から空港を行き交う飛行機を見ることができる。周りは倉庫街で、特に週末は人の往来も少ない。冒頭に記載の通り、一番近いJRの大森駅からバスで30分程度かかる不便さもあるのだろう、来館者は非常に少ない。

訪問は予約制。建物に到着し中に入るとスタッフの方が、展示場所と作品の説明が書かれた紙を渡してくれる。来訪者は少ないので、スタッフの方からこの美術館の話をいろいろ訊くことができた。

この場所は、東京都心にある美術館とは雰囲気が異なる稀有な場所であり、非日常を体感できると思う。三島喜美代の常設展はインパクト充分だ。是非、足を運んでいただきたい。

2022、2023、2024年訪問

基本情報

■ 名称:Art Factory 城南島
■ 住所 : 東京都大田区城南島2丁目4−10
​■ ホームページ:https://gallery1045.com/

目次