アメリカ、カリフォルニア州東部、モハべ砂漠にある奇妙な名前の道。誰もいないソルトレイクの不思議な景色の中で、「無」の世界を体感する。
この奇妙な名称「Zzyzx Road」は、ロスアンゼルスとラスベガスの間を走るフリーフェイ、インターステート15の途中に存在する。一番近くの町は、ベイカーという、ガスステーションと、ショップ、レストランが10軒程度並ぶ場所だ。ベイカーからロスアンゼルスへ向かって、フリーウェイを走っている時に、標識に書かれたこの奇妙な名前を目にし、興味を覚えたというのが経緯だ。
ベイカーの町からだと、インターステート15を南に走って10分程度の場所にある。道路脇に、「Zzyzx Rd」と書かれた標識が目に入り、フリーウェイを下りる。下りたところには何もない。フリーウェイを跨ぐ高架橋があり、右手はすぐ行き止まり、高架橋を跨ぐと左手に道路が続いている(2018年時点では、右手にも道路が延びていた)。
この道路は緩やかに下っており、しばらく走ると、前方にドライレイクの姿が見える。名称は、ソーダレイク。湖面が白いため、ソルトレイクという言い方もできる。初めて、ここを訪れた時は、遠くに見える白いものの正体が分からず、その正体を確認するため、また、その前方に漂うただならぬ光景に引き寄せられるように車を走らせた。どう表現したらよいだろうか、その景色に、「非日常」を感じたのだ。道路は未舗装、周辺に車と人の姿は皆無、前方に見えるソルトレイクの背景には、岩の孤丘が見え、その景色が次第に大きくなってくる。(2010 年の訪問時には、道路は舗装されていた)。
ドライレイクの淵に辿りつくと、道は、ドライレイクの周りに沿って奥へ進んで行く。道路脇に車を止め、エンジンを切り、外に出る。音がしない。温度は40度近くあったかもしれない。音がしないし、風もない。まさしく無音・無風状態だ。ドライレイクの中に足を踏み入れると、白い湖面が眩しく、非日常感が増幅される。しばらく歩いたところで足を止め、周辺を見渡す。左手遠方にフリーウェイを走る車の姿が見えるが、エンジン音が聞こえない。
このようなドライレイクは、カリフォルニア州東部には、いくつか存在するが、この場所が特筆するのは、ドライレイクの背景に見える岩の孤丘だ。黒褐色のその孤丘は、三角錐を崩したような形状で、その崩れ方に神的なものを感じた。「無」という言葉がしっくりくる。その場にしばらく立ち止まり、その孤丘を眺め、「無」の世界を享受した。
ドライレイクに沿って続く道をさらに進むと、デザートセンターという建物が集まったエリアに到着する。駐車場もあり、奥に歩いて行くと、平屋建ての建物がいくつかある、未舗装道路沿いにはブランコがある。進んで左には池もあり、池の周りに立つ椰子の木の光景が綺麗だ。このエリアの奥に行くと、温泉の跡地のような場所がある。ここは、かつて、温泉保養地であったということだ。敷地内を歩いていると、人の姿もあるため、一応、デザートセンターの施設として機能しているようだ。
ちなみに、敷地内にあった看板の説明を読むと、この場所のZzyzxという名称は、辞書に掲載した時に一番最後に書かれる名称にしたかったということであった。
私は、ラスベガスとその周辺を訪れる時には、できる限りこの場所に足を運ぼうとする。それは、この場所に存在する「無」を体感するためであり、私にとっては、本当の「無」を体感できる、貴重な場所である。アメリカには、この手の「無」を体感できる場所は多数あるが、車で何時間も走ったり、あるいは、長い時間トレッキングをしないと辿りつけなかったりする。そういう意味では、この場所は、フリーウェイを下りてしばらく走れば辿り着くことができるため、ある意味、お手頃な場所と言える。
尚、ソーダレイクは、最初に訪れた90年代前半と2018年を比較すると、湖面に塩が存在するエリアが狭くなったような気がする。これは、デスバレーのソルトレイク、カリフォルニア州とネバダ州の州境にあるプリムの町付近にあるイバンパレイクでも、同様に、ソルトレイクの範囲が狭くなっているようだ。この周辺で、何らかの気候の変化が起こっているのかもしれない。
是非、インターステート15を走る時には、少し時間を掛けてでも、立ち寄っていただき、「無」の空間を体感していただければと思う。
1994, 1995, 2002, 2005, 2010, 2018年訪問。
基本情報
■ 名称 : Zzyzx ロード、ソーダレイク
■ ホームページ: http://nsm.fullerton.edu/dsc/ (California State University, Desert Studies Center)
(described on Apr 25 2020)