中之条ビエンナーレ (Gunma, Japan)_廃校・廃屋を巡り、遠い昔の記憶が蘇る。

群馬県、中之条。「地方型」で成功している芸術祭。廃校、廃屋に展示された作品を巡り、遠い昔の懐かしい記憶が蘇る。

2000年以降、日本各地で芸術祭が行われるようになった。代表的な例で言うと、2000年に「越後妻有大地の芸術祭」、2001年に「横浜トリエンナーレ」、2010年に「瀬戸内国際芸術祭」が始まった。もちろん世界各地でも行われている。有名なところでは、イタリア、ベネツィアで行われる、ベネツィアビエンナーレなどがある。

日本で行われる芸術祭については、関東近辺で行われるものについては、だいたい足を運んだが、この「中之条ビエンナーレ」が一番気に入っている。場所は、群馬県北部の中之条という場所。西には草津温泉、東には伊香保温泉、北には四万温泉。有名温泉街に囲まれた場所にある。2007年に始まったこの芸術祭は、二年に一度、8月から10月の間、およそ一か月間行われる。展示場所は、中之条地域に点在し、旧小学校だったり、現在は使われていない家だったりする。

日本で行われる芸術祭は、大きく分けると「都市型」と「地方型」に分類される。この「中之条ビエンナーレ」は地方型に該当するが、「地方型」の中でも、成功している芸術祭だろう。この芸術祭の特徴は、「有名作家に依存しない」、「毎回、作品が変わる」、「展示場所が特異な空間」ということになるだろう。 

「有名作家に依存しない」というのは、実際のところ重要ではない。それは、作品のレベルが高ければよいからだが、この芸術祭は、無名作家でも素晴らしい作品を生み出せることを改めて実感できる場所でもある。

「毎回、作品が変わる」というのは、この芸術祭が継続できている大きな要因だろう。特に、他の芸術祭で見られるのは、作品が屋外展示され、一度設置したものを撤去せずに設置し続けている場合があることだ。この場合、メンテナンスが必要となり、そのメンテナンスが施されないことより、作品の質が劣化し鑑賞に耐えられなくなる。この芸術祭は、ほとんどすべてが屋内展示であり、この問題は起こらないが、屋内であっても毎回作品は変えている。

「展示場所が特異な空間」というのは、この中之条が典型的な過疎地域であり、廃校となった学校や、かつての御屋敷など、雰囲気のある特異な場所が存在することを意味する。また、それぞれの場所は、広大なスペースを保持し、都会とは一線を画している。都会で生活する者からすると、「非現実空間」の範疇に入る場所だ。

また、点在する展示会場を訪れると、作家の人が来ていて話をするようなこともある。一人の作家の方は、2015年と2017年に会って話をしている。芸術を生業としている人は、都会で生活をしている自分のような者からすると、少し異なった感覚を持った人が多いはずであり、話をしていても楽しい。

最後に、この芸術祭で使用されるお気に入りの会場と気に入った作品を紹介する。尚、メイン会場以外は、毎回微妙に場所が変わるが、このあたりも、この芸術祭がその新鮮さを維持できている要因だろう。個人的には、イタリアで行われる、ベネツィアビエンナーレよりも楽しい芸術祭だ。是非、足を運んで、「非日常空間」に展示された芸術を楽しんでいただきたい。

旧廣盛酒造
かつて、日本酒が造られていた場所。二階建ての家屋は、天井が高い。一階の奥は、窓がない構造になっているため、照明を使った作品が展示されることが多い。また、離れには蔵があり、歴史を感じさせる贅沢な空間に作品が展示されている。

2021年に離れの蔵に展示されていた、「実存:1194」は強烈だった。

旧五反田学校
1909年に建てられた学校。現在は廃校。平屋建てだが、この木造建築物の歴史を感じさせる風貌とその色彩が素晴らしい。廃校となった学校はいろいろ見てきたが、この学校は「圧倒される」という形容がしっくりくる。展示されている作品は、デザイン系、インスタレーション系が多いが、この建物の色とのコントラストが鮮やか。この芸術祭会場のハイライトとなる場所。

旧第三小学校
明治時代に建てられた二階建ての木造校舎。2005年までは学校として使われていた。四万温泉の町にある。旧五反田学校よりは新しい。四万温泉は、昔懐かしい温泉街。芸術祭期間中宿泊するのであれば、四万温泉街の温泉宿がオススメだ。

長英の隠れ家「湯本家」
西にある六合(ムク)という場所にある会場。この六合は、かつて絹産業で栄えた場所。現在、メイン通りには店らしきものが見当たらない、ゆったりとした空気が流れている。この「長英の隠れ家」は、養蚕用に建造された土蔵造りの建物で、二階には、幕末の蘭学者:高野長英が匿われた場所がある。建物自体、相当古いが、鮮やかな色の作品が映える。離れには蔵のような建物があり、窓がなく、光が入ってこないため、光を使った作品が展示され、秀逸。

やませ
昔、材木問屋を営んでいたという民家。母屋の周りに蔵のようなものがあり、作品が点在し展示されている。160年前に建てられたということだが、木材家屋と蔵が創り出す暗闇と光を題材とした作品がマッチすることが分かる場所だ。おそらく、木材が視覚以外の五感に働きかけているのだと思う。

■ 旧沢田小学校
2019年から会場となった旧小学校。廃校になったのは2015年3月ということなので、本芸術祭が始まった時は小学校として機能していたことになる。校舎自体も新しく、現役小学校のようにも見える。この場所は、映像・メディア系の作品を意識して展示しているように見えた。2021年に訪問した時に展示されていた作品、本郷芳哉の「To know」は強烈だった。モミの木の根っこの葉っぱを積み上げたオブジェは、立ちすくんでしまうほど。

ガイドブックに記載されてあった説明を引用しておく。「私にとって制作を通して素材と向き合っていくことは、その世界と向き合っていくことと同じ意味を持ち、そこから得ることのできる体験的な感覚を通して、この世界の中で人が生きていくことについて考えを巡らせています」。

■ 半谷学:風の龍
屋外作品。「霊山たけやま」という山の頂上から地上に向かってワイヤーロープが張られ、そこにオブジェを並べる作品。圧巻。是非見て欲しい。2015年、2019年、2021年と違うコンセプトで展示が行われている。このシリーズは、是非、継続して欲しい。

体育館 @旧伊参小学校(イサマムラ)@旧第四中学校(伊参スタジオ)
会場には、今は使われていない小学校、中学校があるが、@旧伊参小学校(イサマムラ)@旧第四中学校(伊参スタジオ)にある体育館に、スケールの大きい作品が展示され、圧倒されたことがあるので、作品が展示されている時は足を運んで欲しい。

2015年、2017年、2019年、2021年訪問。

基本情報

​■ 名称 : 中之条ビエンナーレ
■ ホームページ:https://nakanojo-biennale.com/

目次