東京都現代美術館。デジタルカウンターの大きなボードに対峙し、数字の明瞭さと床に映りこむ不明瞭な影を視界に入れ、瞑想に耽る。
宮島達男はデジタルカウンターの作品制作で知られている現代アーティストだ。その作品は、赤色発行ダイオードの数字カウンターを並べて表示するコンセプトで、縦横数センチの大きさのデジタルカウンターを長方形の領域に敷き詰め動作させるというものだ。そのデジタルカウンターの動きは1から始まり2/3/4/5/6/7/8/9と続き、最後に消灯、そして1から繰り返される。この一連の動き、数字が変わる速さが、敷き詰められた個々のデジタルカウンターで異なっている。
宮島達男は、このコンセプトの作品を多く制作している。私が初めて目にしたのは、ここで紹介する東京都現代美術館にある作品。タイトルは「それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く」だ。
この作品は、1998年に制作されているが、東京都現代美術館が1995年に開館後の1998年、常設展示室の3階の部屋に設置された。それから現在まで26年間、同じ場所に設置されている。作品が設置されている部屋は15mx20m程度の広さで、天井まで6m程度の広さだが、この空間にこの作品しか展示されていない(時々、付随的に、部屋の隅に絵が飾られていることはあるが)。
照明が落とされた部屋の壁に作品が展示されている。デジタルカウンターの数は、縦36列、横48列。従い、36×48=1728ケが並んでいる。カウンターが並んだ全体の板のサイズは、縦3m、横4m程度。この板に並んだデジタルカウンターは動き続ける。
この1728ケのデジタルカウンターの数字が変わる速さは異なっている。確認したことはないが、数字が変わる速度は5タイプ以上あるのではないだろうか。最も動きが速いカウンターは、数字を判読できない速さで、最も動きが遅いカウンターは数字が動いているのが分からないので、おそらく数字が変わるのは分単位なのではないだろうか。
東京都現代美術館の常設展は、建物奥の1Fと3Fに展示されている。上野にある東京都美術館が収集してきた現代美術のコレクションを引き継ぎ、この東京現代美術館が展示を行っている。常設展は、日本作家の作品が中心だ。展示室を一周して、最後にこの展示室に入ると、はっとさせられテンションが上がる。東京都現代美術館は何回も足を運んでいるが、企画展や常設展の作品が好みに合わなかった場合でも、最後にこの部屋があるとテンションが上がり、すっきりする。
作品が掛かっている壁の正面には椅子が設置されている。椅子に座り作品を眺める。LEDが発する赤い光が床に映り揺らめいている。揺らめいているように見えるのは、デジタルカウンターが動いているからだが、その床に映し出された不明瞭な部分が、デジタルカウンターの数字の明瞭さと対照的で、そこに、日本文化の根底にある不明瞭なものに対する美徳のようなものを感じてしまう。
私は、閉館時間近くにこの展示室を訪れることが多いのだが、この展示室は空いていることが多い。椅子に座っている人がいることもあるが、少し待つと誰もいなくなる。5-6人座れる椅子の中央に座り作品と対峙する。
作品に対峙していると瞑想しているようでもあり心が落ち着く。デジタルカウンターというアナログとは対極にある作品で瞑想できるというのが、この作品の新しい見方、価値なのかもしれない。
東京都現代美術館は、企画展に足を運びチケットを購入すると常設展も鑑賞できるが、この作品を見るためだけ、常設展だけ、またこの作品だけを鑑賞するために、足を運ぶのも十分ありと思わせてくれる場所だ。
1998年以降複数回訪問
最後に、2020年千葉市美術館で行われていた、デジタルカウンターの異なる形態の作品の写真を紹介しておきます。このように、宮島達男はデジタルカウンターのコンセプトで色々な形態を作り出しています。
基本情報
■ 名称: デジタルカウンター / 宮島達男
■ 住所 : 東京都江東区三好4丁目1−1(東京現代美術館)
■ ホームページ:https://www.mot-art-museum.jp/(東京都現代美術館)
(described on May 18 2024)