ボロス・コレクション (Berlin)_特殊な空間に圧倒される。

ベルリン。特殊な空間で現代アートを鑑賞しながら、かつて、この場所で繰り広げられた歴史を想起する。

ミュンヘンにあるプライベートギャラリー。ミュンヘンには現代美術系のギャラリーがたくさんあり、どこに行くべきなのか迷ってしまうが、インパクトという意味では、このギャラリーを外すことはできないだろう。

場所は、ベルリンの中心となるベルリン中央駅から歩いて15分程度。欧州で一般的な通り沿いに並んだ5階程度の建物を眺めながら歩いていると、コンクリート造りの巨大で異様な雰囲気の建物が現れる。これが、このギャラリーが入っているボロス・コレクションだ。

この建物だが、見た瞬間、戦時中あたりに設立されたいわく付きの場所なのではないかと勘繰ってしまうのだが、まず一周してみる。コンクリート剥きだしの建物には小窓が並んでいる。その小窓は4層なので4階建てということが推測できる。屋上には別の箱が載ったような構造で、木の枝が見える。出入口は正面、左右、後ろの4か所、いずれも鉄扉だ。

このギャラリーは予約によるガイドツアーで鑑賞が可能。ウェブで予約を行う必要がある。予約時間の少し前に正面玄関の鉄扉の前に集合。鉄扉は閉まっている。時間が来ると、係の人が扉を開けて中に招き入れてくれた。入口の鉄扉から中に入ると、右側にもう一つの鉄扉、それを潜ると、もう一つ。その鉄扉を潜ると建物の中になる。これだけでも怪しい感じ満載。

右側にコインロッカーのスペース。古いコインロッカー。これも怪しい雰囲気。その奥に石状のベンチがあり、前にあるテーブルに展示作品アーティストの本と、Boros Collectionの本が置いてある。椅子に座り待機する。私が参加した時のツアー参加者は19名だった。

ガイドの方は20代後半から30代の女性。最初の説明が始まる。この建物では、ナチス時代にユダヤ人を強制収容所へ輸送する前にここで待機させたという説明があった。戦後は、キューバから運ばれてきたフルーツの貯蔵庫として機能。主にバナナが貯蔵されていたらしい。これは、この建物の中の温度が一定に保たれていたことが関係しているとのことだった。当時、フルーツは高価だったため周りには隠されていたが、その後わかるようになってしまい、周辺の住人からはBanana Bunkerと呼ばれていたということだ。90年代以降はクラブとして使われ、その後、このBoros Collectionが始まったという説明だった。

展示は4年に一度替えられる。今回は4度目ということだったので、15年程度続いていることになる。スタートは2008年。建物は5階建て、日本式で言う1階から4階まで、小部屋に作品が展示されている。4階の上は、Rooftop/Penthouseという言い方だったかもしれない。このRooftop/Penthouseへの階段は続いていたが、行かせてもらえなかった。あとで確認したところ、この5階には所有者の住居があるらしい。

各部屋はコンクリート剥き出し。今回、廻った場所には、壁を塗り直す等のメンテが行われている部屋はなかった。建物は1942年に建立。80年程度が経過していることになるが、手は入れられていないようだ。各部屋には作品以外のものは設置されていない。部屋は小部屋、大部屋、サイズは様々に見えたが、この場所で、昔、何が起こっていたのだろうという想像が駆け巡った。

さて、作品についてだが、建物の構造からしてインスタレーションだけかと思いきや、絵も展示されていた。ガイドの方の説明では、このコレクションの所有者は2人ということだった。所蔵品は600あるいは800という数字の説明があった。この中から所有者が何を展示するかを決定するということだった。展示されていた作品は、10から20の間程度(ホームページには27アーティストの名前があるが、すべては廻っていないような気がする)。

作品は、著名なアーティストの作品があるようには見えなかった。現代美術作品には普通のことだが、作品が意味することは、ガイドの方の説明を聞かないと認識できないだろう。展示作品が普通の建物に建てられていたら、高い確率で通り過ぎていたかもしれない。また、作品よりもこの建物の特殊性に気を取られてしまい、部屋を移動するたびに部屋がどのようになっているのかに意識が行ってしまった。

この場所は、この建物の特殊性が9割と言ってもいいだろう。作品が持つインパクトが、この空間の特殊性に負けてしまっているような気がした。それほど、この展示空間は特殊であり、改めて展示場所の重要性を認識させられた。この空間を凌駕するほどの作品の展示ができればいいのだが、今回、展示されていた作品で、このレベルに到達できている作品は、残念ながらないように感じた。

ガイドの方の説明では、最初の頃は、自由に鑑賞する方式だったが、その後、説明がないと作品の意図が分からないことが判明したため、現在のガイド方式に変更したという話があった。ガイド方式にしないと、この複雑な建物は分かりにくいこともあるが、他の美術館で「来場者に自由に歩いてもらい、感じてもらうことがコンセプトです」と言われたことがあり、ガイドの後は自由鑑賞のコンセプトにするのがいいのではないかという気がした。

もしかすると、ガイド方式にすると人が大勢いるため、作品の良さが引き出せないのかもしれない。自由鑑賞時間を設けることにより、空間に作品と鑑賞者だけの空間が構成され、作品の良さが引き出される可能性がある気がする。

ちなみに、写真撮影は禁止。ガイド形式になると時間的な制約が出てくるため、こうならざるを得ないだろう。ただ、最後に15分でもいいので、上述の通り自由散策時間を設け、写真撮影を認めると、作品の良さが分かる可能性があるような気がする。

このギャラリーは、現代アート作品鑑賞という名目で、特殊な建物に足を踏み入れ、この空間で繰り広げられた歴史を想起し、その空間を感じるための場所だろう。これで、秀逸な説得力のある作品群を展示できれば、さらに上のレベルのギャラリーとして名を馳せるに違いない。

2024年訪問

基本情報

​■ 名称: ボロス・コレクション / Boros Collection
■ 住所 : Reinhardtstraße 20, 10117 Berlin, Germany
​■ ホームページ:https://www.sammlung-boros.de/en/

■ その他

  • 鑑賞はガイドツアー形式となる。ウェブ予約が必要。ドイツ語と英語のガイドがある。1-2カ月前に予約ができるようになるが、満員になることが多いようなので、早めに確認して予約しておきたい。
  • ガイドツアーは、ウェブ上では1回の参加が12名となっているが、私が訪問した時は19名だった。時間は1時間半。
  • 写真は禁止だが、ホームページへの明確な記述はない。訪問者が個人的に受付で確認している人はいたが、ガイドツアーの最初の説明では「写真撮影禁止」という説明はなかった。ただし、ガイドツアー時に写真を撮る人はいなかった。本ページに掲載している作品の写真は、ホームページからの引用です。
  • この場所は、ベルリン中央駅から徒歩で行くことが可能。歩いて20分程度。電車とバスでもアクセスは可能だが、離れた場所で停車することになるので、結局歩くことになる。