ライブ音楽の聖地 (Austin, Texas USA) 

アメリカ、テキサス州、オースティン。200以上のライブハウスがあるライブ音楽の聖地で、箱の雰囲気と音楽の質の高さに驚愕する。

アメリカで、ライブハウスが集まっている場所を拾ってみると、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨークシティーのような大都市に加えて、オースティン、ナッシュビル、ニューオリンズあたりが思い浮かぶ。この中で、テキサス州にあるオースティンは、「ライブ音楽の聖地」と言われ、ブルース、ロック、ジャズ、スイング、ポップスと、様々な種類の音楽を聴くことができるライブハウスが存在する稀有な場所だ。テキサスは少しアクセスしにくい場所ということもあり足を運ぶことがなかったが、ようやく訪れることができた。

オースティンには、多くのライブハウスが存在する。全部で200以上あるという。ロック系のクラブもあるが、初めての訪問、かつ、土地勘がなかったため、ツアーに参加した。ツアーは、「Austin, Live Music Crawl」 という名称で、ジャンルの異なるライブハウスを三カ所訪れるというもの。

私が参加した時には、次の三つのライブハウスを訪れた。結論から書くと驚いた。三つとも、ライブハウス/ベニュ―としてそれぞれ雰囲気があり、演奏しているバンドのレベルも高く、かつ、訪れている人々も、音楽を聴きに来ていることが感じ取れた。ちなみに、訪れたのは木曜日。ツアーは、19時から22時まで。移動も含めて、一か所一時間滞在という感じだ。

Elephant Room : Jazz

街の中心のビルの地下一階。店内に入ると、左手にバーカウンターがあり、右側にテーブルが並んでいる。ステージは一番奥。三人編成のベテランジャズバンドが演奏していた。観客は6-7割の入り。場内は、非常にゆったりとしていて、落ち着いて演奏を聴くことができた。気楽にジャズが聴ける場所という感じだが、店内は、入口から奥まで三十メートルほどある贅沢なスペースを保持していた。テーブルも余裕を持って並んでおり、ゴチャゴチャ感は無かった。ジャズクラブと言うと、ニューヨークシティーを思い出し、狭い場所にテーブルと椅子が窮屈に詰まったジャズクラブが頭に浮かぶが、そのようなことはなかった。この場所で、カバーチャージなしで、レベルの高いジャズを聴けるのは驚きだった。

Highball:Country/Swing

店内に入ると、今まで見たことがない雰囲気に少し戸惑う。左手はバーカウンター、奥に高さ一メートル程度、幅が十メートル程度あるステージがあり、その前はダンスフロア、ステージ右手と後方にテーブルが並んでいる。ステージ右手と後方の壁に面したテーブルはボックス席になっている。バンドはスイング系。演奏が始まると、カウンター席と、テーブル席にいた男女がダンスフロアに集まり踊り始める。男女セットのステップダンス、古き良きアメリカを体現したような光景だ。観客の年齢は、50-60代が主体だろうか。80歳は確実に超えていると思える男性が、ダンスフロアで若い女性と踊っている光景も見て取れた。20-30代に見える人も散見されたが、少数であった。雰囲気的には、映画のワンシーンを見ている感じで、このような場所が存在することが驚きだった。ガイドの人に訊いたところ、演奏していたのは、オリジナルと有名な曲の混在ということだった。スイング系のバンドは見たことがなかったこともあり、非常に新鮮で、フロアで踊る人々の光景と合わせ、非現実空間にいるような錯覚に陥った。

The Skylark Lounge : Blues

外から店を一瞥すると、掘立小屋のように見えたが、店内は、ローカルの良い雰囲気を醸し出していた。入って左側に小さなカウンターバーがあり、左手奥がステージ。テーブルは、狭い場所に並んでいる。テーブル、家具が適度に古く、年を重ねたライブハウスに見えた。客層は、二十代後半から四十代というところだろうか、店内にはPAの人もおり、曲が終わると、ステージ前までやってきて、音の調整についてアドバイスをしていた。三十人程度入れば、店内は一杯になってしまう感じ。入口脇には独立した部屋があり、ビリヤード台が置かれていた。バンドは、コテコテのブルース。ギターの音色が心地良く、酒を口にしながら、最後まで付き合いたかった。この店の名前から分かる通り、ライブハウスというよりは、まさしく、ラウンジという形容がしっくりくる場所だ。「まだまだ、素晴らしいライブハウスは、存在するんだなあ」と思わせてくれた、貴重な発見となった。

6th Street / その他

オースティンで音楽というと、6th Street が有名だが、上述の三か所は、いずれも6th Street ではなかった。また、Elephant Roomはダウンタウンの中心に位置していたが、残りの二つは、ダウンタウンから少し離れた場所にあった。前日の夜に訪れていた6th Streetは、ライブハウスというよりは、「Barで飲んでいると、脇のスペースでライブ演奏をしていました」という感じで、個人的にはしっくりこなかった。この一番有名な場所が、音楽だけを聴きにくる場所には見えなかったこともあり、ツアーで訪れるライブハウスも、「外れ」があることを覚悟していたが、訪れた三か所は、いずれも素晴らしい雰囲気を持った場所で、オースティンの底力を感じることができた。

ちなみに、ガイドの人の説明によると、ここで演奏をしている人の年収は、ほとんどが10,000ドル以下(年収100万円程度)ということだった。今回、ツアーで訪れた三カ所は、いずれもカバーチャージがなかったが、この環境が、人々が気楽に立ち寄れる重要な要因なのだという気がする。オースティンを含むテキサスは、物価が上がっていると理解しているが(ホテルが異常な高さであった)、カバーチャージを取るようになると、観客が足を運ばなくなり、産業が衰退していく悪循環に陥るような気がする。一方で、私のような観光客が、集まってくることより、物価が上昇することも事実だろうし、非常に悩ましい問題だ。現在の環境が継続されることを願いたい。

尚、今回は、ロック系のライブハウスを訪れることができなかったが、機会を見つけて、是非、再訪できればと思う。

2019年訪問

​基本情報

■ 名称/住所/ホームページ

​◆ Elephant Room :
Swift Building, 315 Congress Ave, Austin, TX USA
https://elephantroom.com/

​◆ Highball:
1120 S Lamar Blvd, Austin, TX USA
https://thehighball.com/

​◆ The Skylark Lounge :  
2039 Airport Blvd, Austin, TX USA​
http://skylarkaustin.com/

目次